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(写真=PIXTA)


日本株式にとっては対岸の火事か

中国経済の減速懸念がある中で急伸していた中国株式が6月の高値からたった1か月で3割下落しました。6月までの上昇スピードが速くバブル懸念があったため、足元の下落は中国株式のバブル崩壊の序章とも言われています。

その一方で、日本株式については比較的堅調に推移しています。日経平均株価は、一時1万9千円目前まで下落したものの、その後は切り返し何事もなかったように2万円台を維持しています。やはりバブル懸念は中国株式のみの話で日本株式にとって対岸の火事なのでしょうか。


危うい需給要因からの安心感

筆者は日本株式についてはやや高値圏に足を入れ始めているものの、現時点ではバブル化している可能性は低いと考えています(i)。そもそもバブルとは株式や不動産などが高騰し、「実態」と著しく乖離した価格で売買されている状況です。

日本株式については予想PER(株価収益率)などをみる限りでは企業業績、つまり「実態」との極端な乖離は足元ではみられません。しかし、一昨年辺りから日本株の買い材料の一つとして、需給要因が挙げられている点には若干の危うさを感じています。需給要因とは具体的に日銀のETF買いや公的年金基金の動向です。

やや話が脱線しますが、筆者も含めてインターネット・ショッピングを利用されている方が多いと思います。その際に、自己都合での返品が可能なサイトのほうが返品不可のサイトと比べて、財布の紐が緩くなりやすくならないでしょうか。意に沿わない商品が着た場合、返品できるので当然のことです。

この返品可能と似た効果が日銀や公的年金の買い期待にあると筆者は考えています。この先、誰かが買い取ってくれるだろうという安心感が、バブルの芽となる可能性を秘めていると思います。実際に中国株式の高騰の背景の一つに政府の経済政策への期待感、つまり似たような安心感が投資家の間にあったことは確かです。

さらに、日本株式の需給面での下支えはいつまで続くか分からない危うさがあります。公的年金基金についてはまだ○兆円買い余力がある、もうそれほど買い余力がないといった様々な予想が市場にあります。実際の動向は蓋を開けて見ないと分かりません。

7月10日公表されたGPIF(年金積立管理運用独立行政法人)の2014年度の運用状況を見ると、2014年度末で日本株式の構成割合が23%と2013年度末の15%から大きく上昇しました。基本ポートフォリオの日本株式の構成割合は25%であることを踏まえると、前年度と比べて日本株式の買い余力がなくなったことは明らかです。

そもそも、わが国の年金財政を考えると給付超過で基金が縮小することが見込まれています。毎年毎年、昨年度のように年金基金が日本株を大きく買い続けることは不可能です。

日銀も現在のETF買いを永遠に継続することはないため、どこかで縮小もしくは買い止めという話が出てくるかと思います。期待していた買い手が突然、もしくは気がついたときにはいなくなっている可能性もあるのです。


中国株式は他山の石

上昇相場が3年目を迎えると、過去低迷していた時のことを忘れて右肩上がりに株価が上昇していくことが当然のように錯覚してしまいがちです。需給面での下支えが期待できるならばなおのことです。このようなときこそ、相場の格言:

「もうはまだなり まだはもうなり」

を肝に銘じたいところです。まだ日銀や公的年金が買ってくれるから大丈夫と思っていたら、もう天井だったということにもなりかねません。

中国株式の急落は他山の石として、日本株式について楽観的になり過ぎていないかと私たちに問いかけているのではないでしょうか。

(i) 詳しくはレポート「 目にする数値ほど強くないかも?~企業業績と株価をキャッシュ・フローから検証~ 」をご参照ください。

前山裕亮
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究理事

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