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現在の日本経済は、アベノミクスを支えるリフレ派の方々や今年日銀の総裁に就任した黒田氏によって、長年の懸案であったデフレからの脱却が進められている真っただ中にあります。過去20年程度物価が上昇しなかったことを考えると、現在は歴史的な転換点にいるといえるでしょう。そこで、今後物価が上昇し始めた際の資産運用について、検討していくことにします。


①知らずのうちに染み付いているデフレ期待

先日、ある新聞の紙面において、中学3年生の15歳の女の子がスーパーに買い物に行った際に、製品の価格が上昇していることに驚いていた、という記事が掲載されていました。日本はここ20年程度デフレに悩まされ続けているわけですから、その彼女が産まれたときには既にデフレ下にあり、それ以後物価は上昇していないのです。そのため、彼女が製品価格が上昇することに驚きを覚えるのは当然のことでしょう。それどころか、高度経済成長期を経験し、オイルショックの影響を受けたことのある高齢者の方ですら、物価が上昇することに違和感を感じていると仰っていたのを聞き、日本人は完全にデフレの感覚が染み付いているのだと再確認させられた次第です。

物価は、その時々の経済情勢等の影響を受けて変動するもので、上昇または下落し続けることはないということを頭では理解していても、長期間にわたるデフレで養われた感覚が強すぎるために、インフレに向かいつつある現実を前にすると、少なからず違和感を感じることになるのでしょう。


②デフレ脱却に伴い意識を変える必要性

これまでは、デフレが日本人の常識となっていました。デフレは、物価が下落することをいいますが、裏返せばそれは通貨の価値、つまり円の価値が上昇することを意味します。したがって、これまでの日本では、円でお金を保有していれば、資産運用をしなくても時間が経てば手持ちのお金の価値が上昇してきたわけです。これが、デフレ下ではCash is king(現金は王様)といわれる所以です。そして、それを明確に表しているのが、日本の個人金融資産1,500兆円のうち、現預金が55%を占めているという現実でしょう。

しかし現在の日本は、デフレから脱却し、安定的に2%のインフレの状態に持っていこうとしています。このような状況下では、これまでの常識は、完全に非常識になってしまいます。インフレはデフレの反対ですから、日本の通貨である円の価値は継続的に低下していくことになります。そのため、自らの金融資産を現金や預金という形で保有していれば、年々その価値は低下していってしまうことになるのです。したがって、今求められているのは、体に染み付いてしまっているデフレの感覚を払拭し、今後は物価は上昇するのだ、つまり円の価値は低下していくのだという事実をいち早く理解し、行動に移すことだといえます。


③インフレに備えた運用方針の策定

そうであれば、今後はどのように行動(資産運用)すればよいのでしょうか。結論からいえば、最低限、円の価値が低下する分を何らかの形で金融資産が増えるように行動(資産運用)すべきなのです。つまり、継続的に2%のインフレになると想定するのであれば、自らが保有する金融資産を一年間で2%以上増えるように資産運用しなければいけないのです。2%を下回る運用益しか獲得できなければ、自己の金融資産の価値は低下してしまうわけですから、現在超低金利で運用されている銀行の普通預金や定期預金で資産を保有していても、年々資産の価値は低下していってしまいます。もちろん、物価の上昇とともに金利は上昇することが見込まれますが、物価の上昇率ほど金利は上がらないのが通常ですし、ここでは詳細は割愛しますが、金利の上昇を抑えたうえで安定的なインフレを目指している現状では、預貯金で資産運用をしているだけでは、到底インフレ率を上回る運用益を獲得することはできません。

それでは、インフレ下で選択すべき金融商品について具体的にみていきましょう。まず、インフレに強い金融商品といえば、国内株式や不動産が一番に挙がることでしょう。また、これまで預貯金でしか金融資産を運用したことがないという方は特に、いきなり株式や不動産の現物に投資するのはハードルが高いでしょうから、それらを組み込んだ投資信託やREITも有効だといえます。そして、高金利の新興国国債やハイイールド債に投資する投資信託も、2%以上の運用益は十分期待できますから選択肢に入ってくるでしょう。ただ、海外の金融商品に投資する際には為替リスクがついてきますので、今後円安傾向が続くと確信できる場合を除いて、為替ヘッジが付されている商品を選ぶのが賢明かもしれません。

これら以外にもインフレに強い金融商品は存在しますが、いずれの金融商品で資産運用するにしても、最も大切なことは、自分が理解できる金融商品に、リスクを許容できる範囲内で投資するということです。リターンが大きいということは、その分リスクも大きいのだということを肝に銘じて資産運用に励むことをお勧めします。