8月12日に発生した天津市浜海新区の大爆発事故は、公式発表で死者173人、入院を要した負傷者は798人に上っているが、低く見積もられているというのが現地の認識だ。もう一つ共通認識となっているのは、当局と業者の癒着である。


死者1人と発表の事故が軍事パレード後には13人に

設立3年目の天津瑞海という会社が簡単に危険物取扱いの許可を、しかも住宅隣接地で取れたこと、関連当局への書類申請も行なわず危険物保管を行っていたこと。これらだけで十分な証拠と考えられる。

権力者をバックにつければ不可能も可能になるという、典型的な中国の姿が現れているといっていい。その後、8月だけで、22日、23日、24日、31日と各地で連続して爆発事故が起こっている。現場は華北地区が多かった。31日の山東省東営市の事故では、当初死亡者は1人とされていたが、軍事パレード終了後の5日には13人に増えていた。


危険物倉庫で働くのは安全教育もされていない農村の人たち

天津市は中国では最も年季の入った工業都市である。工場労働者の子弟が多く、彼らは工場に就職することに抵抗がない。だから地域として熟練工は多いはずだ。

ただし設立3年目の危険物倉庫会社にそうした人材はいなかったろう。隣接する河北省には、100年前かと見まがうような遅れた農村がまだ散在している。北京・天津の近くにありながら、何が明暗を分けたのかと思わず考えこんでしまうところだ。

主な人材は近在の農村から引っ張って来た人たちだろう。訓練も安全教育もなく、いきなり現場へ放り込まれ、こき使われる。こういうとき、華北や東北の中国人は比較的従順で、運命を甘んじて受け入れているように見える。広東省のように、血気盛んな若い労働者が争議を起こすようなことは一般的ではない。

もともと長く勤める気はなく、雇用、医療保険、住宅積立金など、給料から天引きされることを望まない。中小企業クラスの経営者も、いつやめるか分からない連中の福利経費を負担するなどまっぴらだと思っている。こうして労使の利害は末端の労働市場において奇妙に一致している。