日銀が発表した資金循環統計によると、2015年6月末の企業(民間非金融法人企業)の金融資産残高は、前年同期比14.9%増の1124兆円と過去最高を更新した。安倍政権の本格始動後の2013年3月末以降では、現金・預金の着実な増加と株式・出資金及び対外直接投資の著しい増加が目を引く。


海外展開、M&A、資本提携が加速化

2015年6月末時点の対外直接投資残高は79兆円で企業の金融総資産残高の7.0%に過ぎないが、10年前の2005年6月末(26兆円、全資産の3.3%)と比較し、3倍以上の水準に達している。日本経済が低成長を余儀なくされる中で、中国やインドなど人口が多く高成長を続ける国での販売拠点の整備や東南アジアなど相対的に賃金水準が低い国への生産拠点の移管が進んでいることを裏付けている。

国内でのM&Aや資本提携も増加傾向にある。企業が保有する株式・出資金残高は、2013年3月末には197兆円だったが、2015年6月末には82%増の359兆円に達している。こうした動きは、シェア拡大や新規事業進出の手段として買収や資本提携が多用されたことを示すと考えられる。

一方、設備投資は冷え込んだままだ。GDP統計によると、2013年1-3月の民間設備投資額は68兆円(季節調整済み)だったが、2015年4-6月は73兆円(同)にとどまっている。この間、四半期ごとの設備投資額の増減が一進一退を繰り返していることは、周知の通りである。


企業は海外に活路を求めるのみか?

結局、多くの日本企業は、海外進出か他社への投資以外に成長の道筋を見出せていないのではないか。自社(国内)で設備投資を行い世界的なシェアを拡大したり、新規事業を軌道に乗せたりする自信がないようにも見受けられる。

それが対外直接投資の激増と株式・出資金の大幅な増加に表れているのではないか。現金・預金残高も2013年3月末の223兆円から2015年6月末には243兆円まで増加しており、多くの企業が国内の投資余地は大きくないと認識していることが読み取れる。別の見方をすれば、海外展開が難しい国内型の企業は、計画的に事業構造の転換を図らなければジリ貧に陥る可能性が高いとも言える。地方銀行、生命保険、鉄道、エネルギーなどの業種は、とくに危機感を持つべきだ。

企業の海外展開が対外直接投資(現地法人化)により促進されても、輸出が増えなければGDPの拡大には繋がらない。多くの企業が国内でイノベーションを起こせない限り、日銀が超金融緩和策を継続しても力強い経済成長を実現することは困難だろう。