世界の株式市場は、FRB(連邦準備制度理事会)の早期金融引き締め観測の後退と、TPP(環太平洋連携協定)交渉が大筋合意に達したのを受けて、底入れムードを鮮明にさせている。しかし、最近の上昇相場の持続性については不透明感が拭えない。何よりも気掛かりなのは、中国経済の減速懸念が抜本的に解消されていない点だ。内外で屈指の中国ウォッチャーとして知られる日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏は、中国当局の度重なる利下げと物価上昇を背景に実質金利がマイナスになっており、「シャドーバンキング問題」が再燃する危険性を指摘する。まずは、その背景について解説して頂こう。


中国の預金者は日本よりも実質金利に敏感

今回も主要経済指標をみていくことにしたい。8月以降、中国経済の減速が世界的に懸念されているが、足元はどうであろうか。

8月の消費者物価は前年同期比2.0%上昇し、上昇率は7月より0.4ポイント加速した。5月からの動きをみると、5月1.2%→6月1.4%→7月1.6%→8月2.0%となっており、次第に物価が上昇している。ただ、今年のインフレ抑制目標は3%であるので、まだ危険水域には達していない。

中国の消費者物価は食品のウエイトが3割以上を占めており、特に生鮮野菜と豚肉価格の影響を受けやすい。8月は生鮮野菜価格が15.9%上昇、豚肉価格が19.6%上昇しており、これが物価水準を押し上げている。

消費者物価が高止まりを続けると、金融に影響が出る可能性がある。度重なる利下げによって、現在1年物預金基準金利は1.75%に下がり、実質金利はマイナスになっているのである。中国の預金者は日本より実質金利に敏感であり、実質金利のマイナス傾向が続くと、預金者は預金を引き出し、よりリターンの高い金融商品に投資することになる。現在株式市場は軟調なので、引き出された資金は理財商品・信託商品といったシャド-バンキングに再び向かう可能性がある。これは中国の経済リスクを高めることになるのである。


自動車生産と不動産開発投資の不振が続く

8月の工業生産は前年同月比実質6.1%増となった。5月からの動きをみると、5月6.1%→6月6.8%→7月6.0%→8月6.1%と、一進一退の動きを示している。

なかでも影響の大きい自動車生産は、-6.5%(うち乗用車-23.3%)と、7月の自動車生産-11.2%(うち乗用車-26.3%)に比べマイナス幅がやや縮小した。自動車生産と不動産開発投資の不振が工業の足を引っ張っているのである。