Glasses on money
(写真=PIXTA)

新聞や雑誌、テレビなどで最近よく話題となる「老後破産」。Wikipediaでは、「老後破産とは社会において存在する高齢者に関する問題であり、これは独居老人が貧困により破産状態の生活を送らざるを得ないような状態になっているということである」と定義されている。なぜこうしたケースが増えているのだろう。


高齢者の家計収支は年間50万円の赤字

現在の高齢者の財布事情を紐解いてみよう。内閣府が6月に公表した「平成25年版高齢社会白書」によると、60歳以上の単身無職世帯の家計収支(2014年)は、支出の平均が15万3723円、収入は年金10万3767円その他8440円で、差し引き4万1516円の赤字となっている。赤字額は年間約50万円に上り、貯蓄の取り崩しなどで賄われているのである。

蓄えなしには生活できない状況の中、貯蓄のない世帯は増えている。厚生労働省が公表した「平成26年国民生活基礎調査」では、高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、これに18歳未満の未婚の者が加わった世帯)で貯蓄がない世帯が2003年は11.1%だったが、2013年には16.8%と増加している。また、借入金がある世帯は22.7%に上る。


生活保護水準以下の年金

年金額は年々減少している。1999年に年額80万4200円だった国民年金支給額は、2012年には78万6500円まで下がっている。今後、完全自動物価スライド制の年金制度からマクロ経済スライドに変更されると、たとえ物価が上昇しても、支給額をその伸び率と同じ上昇率で高くならないように抑制されてしまう仕組みになる。

年金の少なさについては、年金と生活保護を比較してもよくわかる。自営業者や農業・漁業者、非正規社員などが加入する国民年金を40年間支払い続けた満額の支給額は一人当たり月額6万4400円(2014年)で、支給額の平均は5万円を割り込む。一方、生活保護費(生活扶助)は家庭状況や居住地域により支給額に差があるが、単身世帯で約6万2000円から約8万円(どちらも2014年)となっている。

単に収入だけでみると年金支給額と生活保護費は大差ないようにも思えるが、生活保護者には医療費や税金、保険料などを支払う必要がない。このため、年金受給者の実質的な所得はさらに少なくなる。そして600万人を超えようとしている一人暮らしの高齢者の半数である300万人が生活保護水準以下の年金収入しかないというのである。

資産がなければ年金が生活保護水準に満たない場合に、不足分を生活保護として受給できる制度があるものの、制度を知らない高齢者も多く、利用者は限られている。


次のページ>>技術進歩で医療費高騰に拍車