欧州(EU)委員会との交渉が順調に進み、EU内での位置付けが英国に有利に働くように見直されたあかつきには「EU残留を国民に呼びかる」と宣言したキャメロン首相。しかし計画は暗礁に乗り上げている気配が強く、世論はますます“離脱”の方向に傾いている。
「このまま国民に押し切られる形で離脱に向かうのか」という見方が強まりつつある中、ついに米国が最大の脅し文句である「貿易規制」を武器に、英国政府に圧力をかけ始めた。
米との自由貿易協定にピリオド
米国通商代表部のマイケル・フローマン氏は10月25日、米国が単独国家と自由貿易協定を結ぶ意思はないことを明確にした上で、「英国がEUを離脱すれば、中国、ブラジル、インド同様、輸入規制がかけられるだろう」という公式コメントを発表。EU圏外では英国最大の輸出取引国である米国からの「宣戦布告」は「離脱後も相手国と自由貿易協定を結ぶことが可能だ」という離脱支持派の主張と真っ向から対決する。
英国は昨年540億ドル(約6兆 5230億円)相当の商品を米国に輸出しているが、「Brexit(ブレクジット=英国のEU離脱)」はその数字に大幅な減少を招くことになる。特に英国の自動車産業は1972年の最高輸出数(192万台)の記録を塗りかえる勢いで成長中で、英国で製造している8割は海外輸出用といわれている。しかし中国などの規定レート(2.5%)が採用されれば、ジャガーやランドローバーなどの大手メーカーにとってどれほど大きな致命傷となるかを想像するのはたやすい。
S&Pの責任者「EU離脱で英国の格付けは2段階下がる」
Brexitを快く思っていないのは政治家だけではない。世界最大手の信用格付会社、スタンダード&プアーズ(S&P)のソブリン格付け責任者、モリッツ・ クラマー氏は、1978年以来最上級(AAA)をキープしている英国の評価が、「EU離脱後は1階級降格、後味の悪い形で離脱することになれば2段階下がるだろう」と予測。
「またスコットランドの独立問題を再浮上させる引き金となることも、格付けを下げる要因となりかねない」と、Brexitだけではなくそれによって引き起こされる「二次作用」にも予想以上の影響を及ぼすことを指摘した。
S&Pは既に英国の政治的安定性を「ネガティブ」に降格しており、かつての米国同様、英国にも政治的不安定要素が見え始めた今、2年以内に評価を下げざると得ない可能性があるという。
“大嘘付き”キャメロン首相は国民を説得できるのか
キャメロン首相は10月28日、クラマー氏の言葉を裏付けるかのように、すべての選択肢が平等に検討されると約束する一方で、「Brexitが英国経済にもたらすダメージを明確に、優先的に考えるように」というコメントを発表した。
離脱支持派が引き合いにだしているノルウェーを例に挙げ、EU加盟国での権限が一切なく委員会の決定に従わなければならない立場にも関わらず、「負担額は英国と同じ、移民の受け入れ数は2倍だ」とノルウェーの置かれた微妙な立場を主張した。
2017年末までに予定されている「Brexit国民投票」を目前に控え、低所得者の家系を支える社会保障給付の大幅カット案を打ち出し、国民と国会から“選挙に勝つためには手段を選ばない大嘘つき”呼ばわりされているキャメロン首相が、残された期間でどこまで国民をなだめすかすことが出来るか、お手並み拝見といったところだ。(ZUU online 編集部)
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