ある難病の治療法を巡ってにわかに、縄張り争いが起きようとしているのかもしれない。高齢化に伴い患者数の急増している、眼病・加齢黄斑変性だ。現状では、非常に治りにくい病気となっており、その治療法として脚光を浴びているのが、再生医療だ。治療法の確立を試みるこの動きで、先陣を切っているのがアステラス製薬 <4503> と理化学研究所(理研)で、互いに鎬を削っている。


ES細胞でアステラスがiPSの理研と向き合う加齢黄斑変性

加齢黄斑変性は、眼球の内側を覆う網膜の中心部の「黄斑」に障害が生じ、視界の真ん中から広く歪んで見えたり、識別できなくなったりする目の病気の一つ。網膜には外界の光を感じとり、われわれが見ている視界を作り出していることから、障害が生じると、目そのものが見えなくなる危険もある。高齢者に多くみられることから、日本社会でも高齢化に伴い患者が増えており、医療分野でも問題のある疾患だともみられている。

同疾患には、大きく分けて2つのタイプがある。その一つが、網膜の裏側を支える網膜色素上皮が徐々に萎縮していき、網膜が障害され視力が徐々に低下していく委縮型となっている。もう一つは、網膜の奥から健康な状態では存在しない異常な血管(脈絡膜新生血管)が作られることで、視野が侵される滲出型だ。

滲出型加齢黄斑変性にはいくつかの治療法があるものの、正常な視力が回復することはほとんどなく、治療法の確立が待たれている。


アステラスはBV買収で攻勢―ES細胞治療の実用化を目指す

この加齢黄斑変性の治療法確立をめぐって競争しているのが、アステラスと理研だ。山中伸弥・京大教授のヒトiPS細胞の樹立でのノーベル賞受賞でも注目される「再生医療」を応用を目指すところは同じだが、その異なるアプローチから、今後の熾烈な競争が予想される。

それが、ヒトiPS細胞を応用するのか、その樹立に受精卵を必要とするES細胞を活用するのかという相克だ。アステラス製薬は民間製薬会社として治療法の確立を目指す企業として、ES細胞を用いた2015年11月10日、米バイオ企業「Ocata Therapeutics」を買収すると発表。これにより、多能性幹細胞から分化細胞を取得する基盤技術の研究開発と、細胞医療の臨床開発を強みの取り込みをアステラスは図る構えだ。

同米バイオ企業が取り組んでいるものこそが、多能性幹細胞から分化細胞を取得する基盤技術の研究開発と、細胞医療の臨床開発だ。網膜色素上皮の再生を目指しており、現在はまだ、臨床試験の段階にあるが、移植細胞の生着の確認や視力の回復傾向も確認されているところだ。

アステラスとしては、今回の買収を契機に眼科でのプレゼンスを向上させるためにも、治療法の確立にこぎつけて、細胞医療におけるリーディングポジションの確立を図りたいところだ。