TPP,国内対応
(写真=PIXTA)


TPP交渉妥結

5年以上の歳月をかけて行われてきたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉は、10月初めに米国アトランタで開催された閣僚会合で、ようやく大筋合意に至った。

2013年から交渉に参加して、TPPをアベノミクスの「成長戦略の切り札」と位置付けて交渉を推進してきた日本にとって、今回の合意は待ちに待った朗報だ。

交渉が続いている間に、これまで世界経済の成長のエンジンとなってきた中国経済は減速が目に付くようになった。世界経済全体にとっても、TPPは中国経済に代わる新しいエンジンとしての期待が大きい。

国際交渉は各国が互いに妥協しなければまとまらないのだから、TPP交渉の結果が日本にとって100点満点の結果と言えないのはしかたがない。交渉がまとまらなかった場合と比べればはるかに良かったことは間違いない。

今後は国際交渉から国内での対応に課題の中心が移っていく。政府は11月25日にTPP総合対策本部を開催して「総合的なTPP関連政策大綱」を決定し、農林水産業の体質強化対策や、地方の中堅・中小企業の海外展開支援、食の安全に対する国民の不安を払しょくするために輸入食品の監視指導体制を強化するなどの、国内対策に動き出した。


国内需要の拡大が本当の効果

TPP交渉に限らず貿易を巡る議論では、「日本からの輸出が増えることが善で、輸入が増えることは悪である」という単純な図式で議論されることが多い。しかし、TPPの交渉で各国は自国の輸出を増やそうと努力したが、その結果はそれぞれの国が輸出も輸入も増やすことになっている。

2013年にTPP交渉への参加を決めた際に政府が示した経済効果の試算では、GDPを約3.2兆円押し上げるとされていた。輸出は2.6兆円増えるが輸入も2.9兆円増えると見られており、差は若干のマイナスだがほぼゼロだと言ってよいだろう。

GDPが増えるのは日本の貿易収支が改善する(外需の増加)からではなくて、貿易が拡大することに伴って日本国内の需要が増えるからなのだ。

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実際の交渉の結果を踏まえてGDPの押し上げ効果を考えると、関税だけを見れば撤廃までに時間がかかるので当面の効果はこれを下回るように見える。しかし、TPPはモノの関税の削減・撤廃だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業、労働、環境の規律など、幅広い分野で新しいルールを構築する幅広いものだ。

試算では考慮されなかった多くの成果があることを考慮すれば、数量的に示すことは難しいが最終的な経済効果はずっと大きい可能性が高いだろう。

しかし、いずれにせよ輸出と輸入の差はわずかなもので、国内の需要が増えることでGDPが押し上げられるというメカニズムは変わらない。