国内対応が重要

貿易の拡大は、日本経済全体にとってはプラスでも、個別に見れば恩恵が大きい産業や企業もあれば、これまでよりも厳しい状況に置かれることになる産業もある。貿易拡大の利益は大きいが、多くの人達が少しずつ恩恵を享受するのに対して、比較的狭い領域に負担が集中する。

合意を受けて現在よりも厳しい国際競争に直面することになる産業や、そうした産業に大きく依存している地域に対して、なんらかの手当ても必要になるだろう。

問題はこうした状況でどのような対応をとるかである。食品監視体制の強化など、貿易拡大への対応策を十分とらないと、様々な摩擦が起きてしまう。過去の農業対策のように、一時的に地域経済を潤したかも知れないが、長期的に見れば本当に農業や地域の発展のためになったとは言い難いものもあった。

痛みを和らげる鎮痛剤のような対策もケースによっては必要になるだろうが、あくまで一時的なものにとどめて永続的な制度とはすべきではない。最も望ましい対策は、即効性は無くとも将来に向けて産業を発展させるような政策であることは言うまでもない。

貿易問題では、対外交渉でいかに国益を守るかということが成否のカギに見える。しかし、実は日本経済をどのように変えていくのかという国内問題の方がはるかに重要だ。対応を誤れば、せっかくの貿易拡大による恩恵を大きく相殺してしまうことになりかねない。

TPPの成果を本当に生かすことができるかどうかは、今後の国内の対応次第に掛かっている。

櫨(はじ) 浩一
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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