11月4日に東京証券取引所第1部に鳴物入りで上場した日本郵政 <6178> は、セカンダリーでも順調に上値を追っている。上場1ヶ月となる先週4日には、日経平均株価の急落をよそに新高値を更新するなど、引き続き上値期待の強さを示した。同社が3日に3億8330万株の国内最大規模となる「自社株買い」を時間外取引で行ったことに加え、今月29日に予定されるTOPIX組み入れも意識されて買い安心感が広がっているようだ。

ところで、郵政IPOをきっかけに証券口座を開設したものの、なかには「自社株買い」など聞きなれない専門用語に戸惑っている読者も少なくないことだろう。そこで、今回は自社株買いの意義と注意点について解説したい。


企業価値向上の効果をもたらす「自社株買い」

「自社株買い」とは、文字通り上場企業が過去に発行した株を買い戻すことである。今回の日本郵政の自社株買いは、財務省が保有する株を中心に買い戻すものであったが、上場企業では市場から直接買い戻すケースも多く見られる。いずれのケースでも市場に流通する株数が減少するため、1株当たりの価値が向上し、株価を押し上げる効果が期待できる。このほか、株主への利益還元やストックオプション、M&A目的での株式交換などにも利用される。

自社株買いは、かつては商法で禁止されていた。1994年の法改正で解禁されたが、企業側には制約があった。その後、2001年に再び法改正があり、現在のように使途の制限なく自社株の取得・保有が可能になった。この改正で、上場企業が長期にわたり保有できるようになった自社株は「金庫株」とも呼ばれる。


再び市場に売却せずに「消却」する企業も多い

上場企業の自社株買いは、今では日常的な光景となっている。たとえば、今年11月に取締役会で自社株買いを決議した上場企業はトヨタ自動車 <7203> 、三菱UFJ <8306> 、味の素 <2802> など60社を超える。

投資家にしてみれば、自社株買いに積極的な企業は、基本的には有望な投資先と見ることができる。たとえば、企業が配当を増やした場合はその時点で株主である人しか恩恵を受けられないが、自社株買いは市場に流通する株数の減少を通じて中長期的にその株を保有するメリットが高まることになる。そうした中長期的な視点で自社株買いに動く企業は「企業価値の向上に意欲的」と評価する投資家も多い。

ちなみに、上場企業のEPS(1株当たり利益)を計算する際には、企業が保有する自社株を除くことが一般的となっている。買い戻した自社株は再び市場で売却すること(処分すること)も可能であるが、近年は市場に放出しない企業が増えているからだ。

企業が取得した自社株を再び市場に売却せず、発行済み株数を減らすことを「消却」と呼ぶ。最近では、味の素が2015年11月5日のプレスリリースで「本件により取得した自己株式については、会社法第178条の規定に基づく取締役会決議により、全て消却する予定」と表明している。


「消却」でEPSやROEが向上する効果

上場企業の純利益が変わらないと仮定すると、自社株買いで市場に流通する株数を減らすことにより、EPSは上昇する。EPSが上昇すると、株価がEPSの何倍かを示すPER(株価収益率)が低下することによって割安感が強まる。利益だけでなく、1株当たりの資産も同様に上昇する。

また、自社株買いにより、投資家が注視する経営指標の一つであるROE(株主資本利益率)も向上する。日本企業は大企業であっても、過当競争の影響などで、海外の同業他社に比べてROEが低いと指摘されている。そんな企業にとっては、外国人などグローバルで幅広い層の投資家に株主になってもらうためには、設備投資に使わない余剰資金を配当や自社株買いに充てて、ROEを引き上げることが有効な手立てとなる。


投資家が自社株買いを要求する場面もある

余剰資金が多い上場企業には、投資家から自社株買いを求められる場面もある。今年2月には、投資会社サード・ポイントがファナック <6954> の株式取得を明らかにし、ファナックに自社株買いを求めたことが明らかになった。ファナックはその後、配当性向の引き上げと保有する自社株の消却を実施している。

企業統治の強化を官民挙げて実行する上での規範「コーポレートガバナンス・コード」は、上場企業に中長期的な企業価値の向上を求めている。このことも、自社株買いに積極的な企業を後押しする要因となっている。


M&A絡みで自社株を売却するケースも

ここまでは投資家からみた、自社株買いを行う企業に投資するメリットについて解説した。しかし、時には企業が保有する自社株を消却せずに市場で売るケースがある点にも指摘しておきたい。

電通 <4324> は2013年夏に自社株の売却を発表し、投資家に驚きを与えた。同社は英広告大手イージスの買収に充てる資金を調達するため、公募増資と自社株の売却を行った。売却する自社株は、増資で発行する新株を大きく上回る2900万株だった。

電通は株価が低迷していた時期に自社株買いを行っていた。自社株の売却を決めた13年はアベノミクス効果で株式相場が回復した時期にあたる。同社としては安値で積み上げてきた自社株を、海外での事業規模拡大や、財務体質の改善のために活用する好機と捉えたわけで、長期的に考えれば企業価値向上に前向きな姿勢を示した結果ともいえる。しかし、電通の自社株を除いた株数でEPSなどを計算していた投資家にとっては、新株発行による希薄化とあわせて、やや失望感を抱かせた側面も否めない。

また、上場企業が別の企業を買収する際に、株式交換の対価として保有する自社株を使うことがある。その場合、自社株は買収先企業の株主に交換用の株として割り当てられる。このようなケースでは、自社株消却とは異なり、1株当たりの株主価値は単純には向上しない。前述の電通の事例に通じるところもあるが、株主価値が高まるかどうかは買収先企業の中長期での業績パフォーマンス次第ということになる。(ZUU online 編集部)

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