今回は、発言・報道などが人々の行動に影響を与えるアナウンスメント効果について説明します。その上で、アナウンスメント効果の一般例として用いられる選挙報道と選挙結果の例を出し、次に投資家の方が興味を持つと思われるアベノミクスや企業のプレスリリース等を例に説明したいと思います。

アナウンスメント効果とは

アナウンスメント効果自体は、冒頭で述べたように、発言や報道が人々の行動に影響を与える事ですが、より深く理解する為には、「実体に影響がいく前に人々が行動を変化させる」という意味で理解する必要があります。

また、アナウンスメント効果の中にも幾つか種類がありますが、具体例で見た方が理解しやすいので、まずはアナウンスメント効果の最も有名な例である「選挙報道」を取り上げてみましょう。

選挙報道

「◯◯党圧勝の見込み」や「▲▲党、大幅に議席数を減らす見込み」などといった報道が選挙前から大々的にされるわけですが、それが選挙結果に大きな影響を与える事があります。

例えば、前者の報道を見た◯◯党支持者の多くが投票に行くのを辞めて、◯◯党の選挙結果が当初の予想より振るわなかったり、逆に、後者の報道を見て、▲▲党の支持者で普段選挙に行かないような人が投票に行って選挙結果が良かったりというものがあります。これらが選挙報道によるアナウンスメント効果ですが、前者を特にバンドワゴン効果、後者をアンダードッグ効果といいます。

ここで、投票日前の選挙報道が、投票日における人々の支持率の実体に影響を与えたわけではない(他の要因による影響は当然ある)にも関わらず、人々の行動に影響を与えて、違う結果をもたらすというのがアナウンスメント効果の本質的な意味です。

それでは、この理解を踏まえて、経済・金融におけるアナウンスメント効果の例を見てみましょう。

アベノミクス

アベノミクスにおいて最も目玉となったのがリフレ政策やインフレターゲットでしょう。簡単に説明すると、「将来的に流動性の罠から脱却しているとして、その時に大幅に貨幣供給量を増やす」と約束する事によって期待インフレ率を高めるというものです。(異次元緩和という言葉も大きく報道されていましたが、その緩和が将来の貨幣供給量増加の約束にあたります。)

名目金利を一定以上下げられない状態(これまでの日本)になっている時、金融政策が働かない(流動性の罠)のですが、それが永遠に続くと仮定するのはおかしいので、その状態から抜け出た時(流動性の罠から抜け出た時)に貨幣供給量を増やすというアナウンスを行うわけです。

この時、実体経済において流動性の罠を抜け出たわけでも何でもないのですが、期待インフレ率が上がる(人々の心理・行動が変化する)とすれば、そこにアナウンスメント効果が働いていると言えます。

実際の期待インフレ率の変化はどうでしょうか。期待インフレ率を近似的に表わしているとされるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)を見てみましょう。

参考: BEIの推移(日本相互証券株式会社)

安倍政権が誕生してから4月末くらいまでは、それまでのトレンドを大きく上回る水準でBEIが上昇していました。少なくともこの4ヶ月間はアナウンスメント効果が働いていたと言えるでしょう。しかし、5月以降はBEIが下がり、2012年末までのトレンドラインと同程度の水準になっているようです。

また、村瀬(2013)が言うように、消費税引き上げの報道もアナウンスメント効果を起こしている可能性が高いので、それを差し引いた時、異次元緩和がどの程度実効性があるかというのは慎重に見なければいけないでしょう。

参考: 村瀬拓人『消費税の引き上げと市場のインフレ予想―消費税の影響を除いたブレーク・イーブン・インフレ率の算出―』日本総研, 2013(PDF)