2015年1月に施行された相続税制の改正によって、相続税の基礎控除額が40%引き下げられ、これまで相続税を気にする必要のなかった方も、相続税対策を考えなければならなくなりました。(提供: マンションジャーナル 2015年12月7日掲載

今回の改正の目的は、高齢者世代から若年世代へのスムーズな財産移譲をさらに促すことであり、活用次第では住宅購入を検討されている方へのメリットにもつながる可能性があるのです。そこで今回は、数ある相続対策の中でも、住宅購入にスポットを当てて説明していきます。

相続の基本形である「相続時精算課税制度」の活用

有効な相続対策として、まず考えられるのが「相続時精算課税制度」です。これは、高齢者世代から若年世代へのスムーズな財産移譲によって、住宅などの消費が拡大することを期待されて創設された制度で、2015年1月の相続税制改正に伴ってこちらも改正されました。

おもな改正点として、贈与者の年齢要件が65歳から60歳に引き下げられたことと、受贈者に20歳以上の孫が追加されたことです。ただ、それ以外にも改正点があり、利用の仕方によってメリット・デメリット双方の可能性を含んでいます。この制度を利用する際の注意点と、住宅購入との関連性について解説します。

① 二つの制度(基本型と住宅型)のどちらかを選択しなければならない。

改正相続時精算課税制度は、親や祖父母が直系卑属(子・孫・養子)への贈与に際して認められた特例で、①贈与財産を特定しない制度(以下、基本型と表記)と、②住宅取得のための資金に限定する制度(以下、住宅型と表記)の二つに分類されます。

注意点として、基本型と住宅型の両方を併用することはできず、この制度を利用する場合はどちらかを選択することになります。また住宅型については、取得する土地・建物について一定の要件があり、加えて贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を購入・居住することが条件となっています。それぞれの制度内容については下の表をご覧下さい。

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② 父と母双方からの贈与にも適用が可能

この制度では、「1人の贈与者から1人の受贈者に対する贈与を対象」としています。これは例えば、親から子への贈与に際して、父から子への贈与と母から子への贈与のそれぞれについて適用することが可能となり、父・母双方から2500万円で合わせて5000万円までが特別控除の対象となります。

そして、子供1人の場合はこの制度を利用するにあたって、3つのパターンを選択することができます。子供2人以上になるとさらに選択肢が増えることになります。※パターンBについて、父からの贈与は制度を利用せず、母からの贈与では制度を利用するケースも含みます。

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なお、上の表にある「制度を利用しない」を選択する場合は、年間の贈与額110万円(基礎控除額)までが非課税となる「暦年課税制度」を選択することとなり、110万円を超える部分については最高50%の税率で課税されます。

この暦年課税制度と相続時精算課税制度を併用することはできず、親族間で贈与があった場合はどちらかを選択しなければなりませんので、覚えておく必要があります。

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③ さらに有効な制度の活用法

住宅型を選択して住宅購入資金を贈与しようと検討する時に、より有効な制度の活用法があります。それは、住宅型ではなく基本型を選択し、贈与者が購入した(建てた)土地・建物を贈与するのです。

不動産の財産評価は、実際の購入金額が評価の基準ではありません。住宅については固定資産税評価額が基準となり、購入金額よりも評価が下がります。土地については路線価が評価基準となり、購入価格の3割ほど評価減になります。

つまり、現金で贈与するよりも不動産で贈与する方が財産評価が低くなるため、特別控除枠を有効に利用することができるのです。

「小規模宅地の特例」は相続税節税だけでなく、子の住宅取得にもメリットがある!

①「小規模宅地の特例」とは?

これは、例えば父親が亡くなった時(相続発生時)に、その妻や子など生計を共にする家族の居住用・事業用の宅地が一定の要件を満たしていれば、その宅地の評価額が最大で80%減額されるという制度です。

仮に、父親名義の実家があり、その敷地の評価が5000万円だとすると、小規模宅地の特例によって80%減額され1000万円の評価で相続税が算出されることになります。

② 特例の要件となる土地の面積が緩和された理由とは?

従来、この特例では、居住用の敷地面積の上限が240㎡でしたが、2015年1月に改正されて330㎡が上限となりました。

さて、評価の減額幅を拡充するのではなく、面積を広くしたのはなぜでしょうか。それは、「二世帯住宅」を推進するためです。評価減となる敷地の面積が増えれば、床面積の広い二世帯住宅が建てやすくなります。昨今の出生率低下や待機児童問題を解消し、女性が働きやすい環境整備の一環として、二世帯住宅で親と同居することによって、子供の面倒を親に手伝ってもらうことができ、女性が働きやすい環境を整備しようという政策なのです。

ちなみに、一つの敷地内に二世帯住宅ではなく別棟を建てて住んだ場合は、特例適用外となりますので覚えておきましょう。

③ 土地だけでなく建物の条件も緩和!

二世帯住宅の定義の一つに、双方の世帯が行き来できる構造であることが挙げられますが、従来の小規模宅地の特例では、この定義が建物の適用要件になっていました。

家の中のどこかに行き来できる箇所を設ければ良いのですから、大して問題が無いように思われます。しかし、上下階で世帯を分ける場合は玄関も上下別になるでしょうから、要件に適合しなくなってしまいます。狭い敷地に建てるとなればなお難しいでしょう。そこで、今回の改正の1年前(2014年1月)に条件が緩和され、各世帯で往来がない構造であっても特例の適用が可能となりました。

まとめ

いかに有利にマイホームを購入するかを考える時、値引き交渉や諸費用抑制、住宅ローン金利の比較といった「購入テクニック」がクローズアップされます。確かにそれらの努力はとても重要で、その努力によって不動産・金融のスキル向上にもつながります。
そしてさらに、みなさんにはその努力に加えて国の政策にも関心を持って頂きたいのです。一見、自分とは関係ないと思われる内容でも、前述の「改正小規模宅地の特例」のように、マイホーム購入を検討される方が、親との同居を選択肢に組み込むことによって、購入のバリエーションが増えることになります。特にここ数年は、不動産に関連したさまざまな法律・税制の改正が行われています。少しでも有利なマイホーム購入を実現できるよう、日頃から新聞記事や経済情報をチェックするよう心掛けるようにしましょう。

マンションジャーナル
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