これまで率いた組織を軒並み急成長させてきた松本晃氏。現在会長兼CEOを務めるカルビーでも、2009年の就任直後から増収増益を実現させ続けている。そのスピードの源は何か? 本日(2015年12月10日)発売の『THE21』2016年1月号で、秘訣をうかがった。
不要な業務の排除こそが仕事のスピードを上げる
伊藤忠商事に在籍中、出向先のセンチュリーメディカルを黒字へと転換。その後、転職したジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人でも売上げと利益を急伸させた松本晃氏。カルビー会長に就任すると、わずかな期間で同社を高収益企業へと変貌させた。「組織改革」という大仕事を短期間で次々に成し遂げるスピードは、どこから生まれるのか。
「それはいたってシンプルです。世の中の仕事はすべて3つに分けられる。『しなくてはならない仕事』『したほうがいい仕事』『しなくてもいい仕事』です。このうち、『しなくてもいい仕事』や『したほうがいい仕事』はしない。この1点に尽きます。
スピードというと業務を行なう速さに意識が向きがちですが、重要なのは不要な業務を排除すること。そうすれば、仕事は速く進みます。私は常にそうして仕事をしてきましたし、組織の成員一人ひとりにも、それを求めています」
ごく単純なことでありながら、これを実践できている人は少ないと松本氏は指摘する。
「ほとんどの人は、まず『しなくてもいい仕事』から手をつける。それがすんだら、『したほうがいい仕事』をする。夏休みの宿題をしなければならないのに、まずは掃除を始めるようなものです。これは人の性かもしれません。
重要度と緊急度の2つの軸で優先順位を決め、この両方が高いものから手をつけるべし、という考え方がありますね。それがわかっているのに、できていない人が多くいます」
この2軸で考えたとき、「重要だが緊急ではない仕事」こそ、まず意識するべきだという人もいる。
「確かに、そういう仕事もしなければなりません。しかし、そこに目を向けていたらキリがない。まずはあれこれ考えず、重要かつ緊急な仕事に集中すること。そうすれば、その仕事は短時間で終えられる。そうして生まれた余裕の時間を、重要だけれども緊急性の低いことに充てればいいのです」
そもそも「何をもって重要とするか」という問題もある。その判断に迷う人もいるだろう。
「それも答えはシンプルです。『どれだけ多くの利益を生むか』。それ以外の何物でもありません。他の判断基準があったら教えていただきたい(笑)。
企業には必要条件と十分条件があります。必要条件は、世のため、人のためになること。しかし、それだけならばNPOやNGOでやればいい。企業である以上、利益を生むことが十分条件。重要性の判断基準も、ここに置くべきです」
ムダなことをできない環境を作ってしまう
「不要な業務を排除する」という考え方に基づいて、松本氏は会長就任直後から、カルビーの徹底的な組織改革を断行している。その象徴が、「ノーミーティング・ノーメモ」というポリシーだ。
「当時のカルビーには、とにかく不要な紙が多すぎました。膨大で複雑な資料が、冗長な会議のたびに作成される。紙の山と生産性の低い話し合いを、とことん省くことが必要でした。そこで私が行なったのが、書類を置けない環境を作ることです。
2010年の本社移転を機に、個人のデスクをなくしました。毎朝、出勤すると、その都度、コンピュータがランダムに座る席を指定します。その席に座っていられるのも最長で5時間。それを過ぎると移動しなくてはならないシステムです。
すると、どうしたって書類を置く場所がない。必然的に書類が減るわけです。書類のみならず、余計なモノはいっさい置けない環境ですから、オフィスは常にキレイな状態。整理された空間では思考も活発になる。これも、仕事を速くするのに役立っています」
「ノーミーティング」についても同様で、会議を減らすためには、会議をする場所をなくしてしまえばいいという発想だ。
「当社の執務フロアには、ドアのついた会議室は1つしかありません。しかも、その部屋は全面ガラス張りで、長々と話すには不向き。落ち着かないから早々に切り上げよう、となります」
役員同士の会議でも、オープンなスペースで行なうという。
「会社の中に、知られてはいけない秘密なんてないんです。1つだけの例外は、インサイダー情報です。コンプライアンスを守っていれば、他には何も隠すことはないはず。オープンにしたほうが社内のコミュニケーションが良くなり、ムダも省け、仕事も速くなります」