(写真=PIXTA)
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今、医学界では腰痛へのアプローチが大きく変わりつつある。これまでは、関節の変形や神経の圧迫などによって腰痛が起きると考えられてきたが、実は両者の因果関係は希薄であり、むしろ、心理的・社会的な要因が腰痛を引き起こしているケースが多いとして、「生物心理社会的疼痛モデル」が提唱されている。つまり、腰痛は心が起こすということだ。

腰痛による労働生産力の損失は途方もない金額

厚生労働省が実施した国民生活基礎調査(2013年)によると、腰痛は日本人の自覚症状の第1位であり、人口の約9%が何らかの腰痛症状を持つという。これは国民医療費の増加につながり、順天堂大学の伊藤弘明氏の試算では、職場で発症した腰痛(職業性腰痛)の直接医療費は2011年度で821億円となっている。

これは医療費だけの話であり、腰痛で仕事を休んだり辞めたりしたことによる労働生産力の損失まで含めると、途方もない金額となるはずだ。アメリカでは年間800億ドルもの労働生産力が腰痛のために失われているという試算があり、腰痛は国家的問題だということがここから理解できる。

腰痛には「赤信号」と「青信号」の2種類がある

国際腰痛学会においてノーベル賞にあたる、「ボルボ賞」を受賞した有名な研究では、「心理的な問題や社会的な問題が腰痛を引き起こす危険因子となりうる」と述べられており、これに関連する新しい痛みの考え方は「生物心理社会的疼痛モデル」と呼ばれている。

だが腰痛がある場合、それがどんなものであっても、重大な病気の症状として起きている可能性を考え、まずは病院を受診すべきだ。

ここでいう重大な病気とは、転移性脊椎腫瘍、脊髄・馬尾腫瘍、化膿性脊椎炎、椎体骨折、解離性大動脈瘤、強直性脊椎炎、閉塞性動脈硬化症、馬尾症候群などの病気。これらの病気による腰痛は、腰痛患者のうち1~5%と少数だが、見逃して病気が進行してしまうと取り返しのつかない結果を招くことになる。

特に膀胱直腸障害(排尿困難、残尿感、尿失禁、便失禁)やサドル麻痺(自転車のサドルが当たる部分、つまり肛門や会陰部の感覚消失)が出現したときは、一刻も早く脊椎外科医のいる病院を受診したほうがいいだろう。

そのような重大な病気による腰痛が「赤信号(レッドライト)の腰痛」だとすれば、「生物心理社会的疼痛モデル」と関連した、心理的・社会的要因が原因となっている腰痛は「青信号(グリーンライト)の腰痛」であり、ほとんどの腰痛はこれにあたると言われている。