英国のEU離脱問題が深刻化した当初から、「世論にも耳を傾ける熱烈な残留支持派」という自らに位置づけを明確にしていたキャメロン首相。残留の決定打となるはずのEU条件再交渉も依然として進展を見せず、総選挙演説の際切り札にした「EU離脱の是非を問う国民投票」の期限が来年に迫っている中、移民問題などが引き金となりEUに対する国民の反発感情が一気に加速している。

残留支持派と離脱支持派の差はわずか2%

英世論調査機関YouGovが昨年5月に実施したアンケート結果では、残留支持派と離脱支持派の差が45%と33%と大きく開いていたが、9月末から3カ月にわたり2万2000人を対象に行った大規模な調査では、残留支持派(51%)と離脱支持派(49%)の差はわずか2%にまで縮まっている。

また英テレグラフ紙の「日がわり投票」では、1月25日の時点で2万3000人中「離脱支持派」が83%という結果も報告されている。

政党内も2派に分裂 勢力を伸ばす右翼UKIP

政党内でも2派に分裂し、「ブリクジット(Brexit=英国のEU離脱)が引き起こす深刻なマイナス要因」を理由に残留を訴えかけている保守党、労働党、自由民主党などに対し、離脱を強く望むイギリス独立党(UKIP)が2014年の欧州議会議員選挙では400万票を集め第1党の座を獲得後、昨年の総選挙でも第3党にのし上がるなど確実に勢力を伸ばしている。

それに加えて保守党や労働党でも離脱を支持する声は多数あがっていることから、国民投票の実施日が発表され次第、党内はさらに大きく分断され、国民を巻き込んで壮絶なキャンペーンが繰り広げられると予想されている。

メルケル首相「交渉の余地はない」

EUとの条件再交渉で英国を優位な立場に引き上げ、何とか世論を支持方向に反転させたいキャメロン首相だが、「移民の福祉制度の利用制限」「EUにおける英国独自の位置付けの強化」「欧州連合基本権憲章で定められた条約が、英国の法的効力執行の際に妨害とならない保障」といった要請はことごとく却下され、暗礁に乗り上げている感が強い。

ドイツのメルケル首相は昨年12月、英国側の要請はEU本来の理論に反するとして、「移民の受け入れや福祉制度制限について交渉の余地はない」とバッサリ斬り捨て、英国のEU離脱が脅し文句としては通用しないことを通告。

最後の切り札を三下り判付きで返されたキャメロン首相は、「国民投票実施前にEUでの英国の立場を強化する」という前言撤回の淵に立たされており、国民投票へのキャンペーンに余力を投球するしか残された道がないように見える。

オズボーン財務大臣「早ければ2月には再交渉が完了」ECBも対応策検討

「キャメロン首相よりも切れ味が鋭い」といわれるオズボーン財務大臣は1月20日にスイスで開幕したダボス会議(WEF年次総会)の席で、「現在2つの重大な懸念を抱えている」というラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事が「その1つがEU離脱問題だ」と早急な解決の要請を仄めかした際、「早ければ2月には再交渉が完了する可能性がある」と、いくらか余裕を感じさせた。

ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁はこうしたダイナミズムの変化が、「強制されるままに全ての要求を受け入れてきた英国とEUのギクシャクした関係を解決する糸口になるかも知れない」と見ていると同時に、国民投票の結果に関わらず、「EUは英国との共存関係の改善に努めるしか道はない」とコメント。ECBがEU圏における価格と通貨の安定に向けて動きだす意思を示した。

「一生に一度きり」の国民投票は早ければ今年夏に実施

「可能な限り早い段階で投票を実施したい」と繰り返していたキャメロン首相が、最近になって「急ぐ必要はない」と言い出したことから、実施時期のメドが立ちにくくなってはいるが、 政党では今年中に国民投票が行われるという見方が強く、一部のメディアでは今年夏頃の可能性が報じられている。

既に離脱によって生じるマイナス効果が直撃する企業を巻き込み、「残留VS離脱」のキャンペーンは派手に火花を散らしており、「離脱」「残留」のチラシが事あるごとに配布されるなど、世間はにわかに騒がしくなってきている。

ブリクジットが投げかける世界的波紋を考慮すれば、「国民投票はポーズだけで結局残留することになる」という見方も未だ根強く、投票への足並みが落ちることを懸念してか、オズボーン財務大臣は「国民投票は生涯一度きり。結果がでれば後はもう引き返せない」と、英国で選挙権を持つ全ての国民に票を投じるように呼び掛けている。(ZUU online 編集部)

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