男性の就業率の推移

ちょっと驚くのは、男性の25~29歳、30~34歳、35~39歳、この年齢層の人口に占める、働いている人たちの比率の推移です。1992~1993年までは94%、さらにさかのぼって第1次オイルショックまで行くと97%。ほとんどの、この年齢の男性が働いていたことになります。

ところが、急激にこれが1995~1996年から低下していき、96%あったのが、今は88%。それでも、景気の持ち直しによって、アベノミクスの影響があったのかどうか分かりませんが、このところ働くこの年齢層が若干増えましたが、それでも以前に比べ就業率は大きく低下し、働いていない人の割合が男性で高まっています。

逆に100%から88%を引いた12%が、この年齢層でも無業、働いていない人たちになっています。なぜか。ターニングポイントは、バブルが崩壊した直後の1991~1992年に就職した人たちです。そこで正社員に就けなかった、あるいは一度正社員に就いても、自分の満足する企業に就けなかったから会社を辞めた人たちが急激に増えた。その人たちが非正規化して非正規労働者になると、この比率も上がっていく。

他の国でも、フランスでもドイツでも、若いときは有期雇用が多いけれども、年齢とともに無期の方に転換していくという、正社員への転換が図られていきますが、日本の非正規の特徴は、そうなっていないことです。むしろ固定化していくということで、一度、非正規化になると、そこから脱却することが非常に難しいという状況になって、今見たような、仕事を諦めてしまおうという人がこれだけ増えたのではないか。

同じように30~34歳も2000年ぐらいから急激に落ちます。この人たちもバブル崩壊の後、就職した人たちで、学卒時の景気の善しあしが生涯にわたって影響を残していくという状況になっている。いかにして、こうした人々の意欲と能力を発揮できる状態を作っていくかが重要になっています。

25~34歳において、今働いている男性85%の中で、どれだけが非正規労働者の占める比率かというと、15%を超えるようにまでなってきています。不安定雇用、そして所得が低いということで、これが大きく少子化に影響しているという分析もあります。

自分は結婚したい、しかし今後を考えるととても生活できない、まず親が許してくれないということがあって生涯未婚が増えてきているのではないかという指摘もあります。さらには、自分は3人、子どもが欲しいと結婚した人たちで考えていても、それを1人で我慢していく。今、世帯主の非正規化の比率が急激に上がった。

かつては非正規というと、もっぱら主婦パートという形の人たちが大多数を占めていました。当時は、世帯においても、あるいは会社においても、正社員、夫の仕事の給与の足りない部分を補っていく役割で、あえて時間給で換算しても、大きく賃金率に差があっても、それを社会として問題視してこなかったということがあったのではないかと思います。

ところが、実は自分の妻だけがパートとして賃金が安いだけではなく、ついに自分の子どももそうなったということで、初めてお父さんみんなが問題視する。そして一家を支える世帯主までがそこに含まれるようになりました。

なぜ奥さんのときには問題視しなかったのか、自分の子どもや世帯主がそうなると問題視するのか。そこで社会問題として労働市場の二極化という問題が懸念されるようになったのだと思いますが、それだけ変化があります。

その一方で、今、企業が雇用の増加として期待しているのが、女性と高齢者だと思います。例えば、60~64歳で働いている人たちの比率を見ますと、これが大きく上がっています。

高年齢者雇用安定法などの法律改正。年金の支給開始年齢までは、企業に希望者全員の継続雇用をお願いしました。この影響もあると思いますし、景気の回復ということで、リーマンショックのときには一時横ばいになっていたのですが、それが再び上がり出すという状況が見て取れます。

65~69歳もそうです。この層でも50%くらいがいまだに働いていることになります。この数字をヨーロッパで見ると、みんな驚きます。フランスの60代前半の男性の就業率は、今は30%にまで上がってきましたが、1990年代の初頭は10%台だったのです。10%が30%に上がりました。

さらにさかのぼって1960年ぐらいを見ると、実は日本の今と同じように70%ぐらいの人たちがこの年齢層では働いていた。70%が10%になって30%に増えた。これはどういうことか。どうしてそんなに上がったり下がったりするのか。これはやはり政策と関連していると言われます。

どういう政策か。例えば1980年代までとってきたのは、若者の失業が大変であるとすれば、高齢者は早く引退して若者に雇用機会を譲るべきだという論調が強かった。公的年金の支給は65歳からでも、60代前半あるいは60歳になる前の58歳から、自分は、例えば肩が痛い、頭が痛くて働けないと自己申告すれば、これによって障害年金を受けることができるということがありました。

これがフランスです。その分だけ社会保障がジェネラスで、それによって早く引退してしまおうという人たちが増えた。

ところが、この政策は失敗だったといわれるようになりました。若者に雇用機会を譲るはずだったのですが、実は若者の失業率は改善しなかった。結果的に何が起こったかというと、高齢者が引退しただけで終わったということです。

企業で働く人たちがそれだけ減っただけで終わってしまった。むしろ今、議論されてきたのは、アクティブエージングだ、日本を見習えという書き方をされます。これによって今までの緩やかな社会保障制度を厳格に運用しようということ、あるいは年金の支給開始年齢を引き上げようということによって、この層の働く人たちを増やそうということをやっています。

フランスの担当大臣が日本に来て話をしたことがあります。日本の高齢者対策というのは簡単だと言っていました。日本では、働く側は意欲が非常に高い。従って、対策としては、会社の方に働き掛ければいいではないかと。継続雇用の重要性を問えばそれでいいではないか。フランスはそうはいかない。両面を見なければいけない。

雇う方の大切さと同時に、今度は働くことの重要性を労働者の方にも問うていかなければいけない、その分だけ、うちはやりづらい。どうすれば働く人たちの意欲、高齢者の就業意欲を高めることができるのか、そのマジックがあったら教えてくれと言われましたが、どうしてでしょうか。仕事以外、知らないと言う人もいますが、どうも必ずしもそうではないのではないかと思います。

労働力人口の減少という中において、これまでの経験を大切にしようと。しかし、だからといって今までの若いときと同じような働き方、同じ給与水準は難しいだろうと思います。

あるいは、ロボット化が大きく進展してくることになれば、まさにロボット・スーツの開発で、それを身に着けることによって、今までは重い物は持てなかったのが、IT化の力を借りながら、そういう人たちが働けるような状況をいかにつくっていくかということも、その大きな対策になってくると思います。