SEPA(Single Euro Payments Area 単一ユーロ決済圏)は、ユーロ圏におけるすべてのリテール決済が、国境を跨いだものであっても、国内決済として行われるようにし、「統合された決済サービス市場」の実現を目指すものです。
EU国内では、各国がそれぞれのルールに基づいて決済を行っておりますが、技術的(通信プロトコルの標準化)、法的制度などを整備して、ユーロ圏内で一つ銀行口座を開けば、ユーロ圏内では自由に決済ができるようになることを目指しています。
今回は、技術的側面や法制度の撤廃・修正などの詳細については触れず、実際にリテール決済が実現した場合に、為替・債券市場にどのような影響を与えるのかに焦点を当ててみたいと思います。


1.SEPAの意義

SEPAは、EU加盟国を含めた32カ国において、国内外の区別なく、ユーロ建ての小口決済が行える地域・およびそれを実現するスキームを指します。具体的には、送金・口座振込、自動引き落とし、カード決済といった決済について、ユーロ圏内であれば、国内にいるかのように決済ができるわけです。

企業であれば、国際送金に時間がかかるため、各国に口座を開設し、国ごとに決済を行っていましたが、SEPAによって、一口座で資金を集中管理することができ、かつ銀国間送金の手数料も節約できるようになります。また、各国ルールに基づいて行っていた複数の決算方法と支払フォーマットが統一化することで、業務効率も向上することが見込まれます。 個人であれば、国を跨いで自動引き落とし、カード決済などを自由に行うことができるのだから、例えば、東京から大阪へ引っ越して、東京で開設した銀行口座から、大阪での光熱費をタイムリーに支払えるようなものなので、利便性がある話となります。

1999年に導入された欧州単一通貨ユーロですが、未だ、欧州単一資本市場の実現はできていない状況です。特に、比較的少額の決済、リテール決済については遅れており、個人や企業が単一通貨ユーロの、本来のメリットを十分に享受できていません。 SEPA導入の意義は、上記のように、より企業活動、個人の消費活動の根ざした単一通貨ユーロのメリットを最大限にすることです。


2.債券市場への効果

SEPAが実現した場合、債券市場へはどのような影響があるのでしょうか。債券 市場と言っても、債券発行市場と債券流通市場がありますが、SEPA導入によって、両市場が活性化することとなり、結果的に債券市場へ流入する資金が多くなることが見込めます。たとえば、投資信託について、欧州の販売チャネルは銀行、保険会社、独立系ファイナンシャルアドバイザー、および直販といったルートを挙げることができますが、SEPA導入により、国を跨いで様々な個人投資家が購入しやすくなることが見込まれ、ラインアップもより多様性を増すことでしょう。欧州企業の資金調達については、アジアと異なり銀行に依存する割合が低いですが、SEPA導入により個人投資家が多様性を増す債券市場に興味を持ち、新たな資金が流入することとなります。また、SEPAの決済サービスの利便性から、外国投資家の資金が流入することも期待できます。

結果的に、ユーロ圏債券市場へ資金流入の拡大が見込まれますが、欧州各企業だけでなく、各国政府についても債券発行と同時に、ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)の強化と、規制やルールを整備していかなければなりません。


3.為替市場への効果

単一通貨ユーロの利便性がより増すことで、為替市場におけるユーロ通貨のプレゼンスは高くなります。地政学的、経済的理由で情勢が不安定になった際に、買われる通貨として、スイスフラン、米ドル、ユーロ、円、スウェーデンクローナなどを挙げることができました。大体戦争が起きた場合などは米ドルが買われる傾向にあり、米国における経済危機などの際は、ユーロが買われる傾向にありました。

ただし、2012年の欧州存亡の危機を境に、ユーロと高リスク資産は同じ動きをしていたというレポートもあるように、安全通貨としてのユーロはプレゼンスを低めていきました。最近では、ユーロとリスクの正の相関が低下している傾向があるとレポートにありますが、SEPAを一つの施策として、ユーロ圏内のインフラを整えることで、ユーロの資産価値が高まることは確実です。SEPAは、強い資産としてのユーロの一助となりえます。

以上のように、SEPAの意義、債券・為替市場に対する波及効果について述べさせて頂きました。債券・為替市場についていえば、SEPAだけでなく、中央銀行の金融措置や、他国経済情勢など様々な要因に影響を受けるため、リテール決済の一スキームであるSEPAだけで語ることは難しいです。ただし、SEPAによるユーロ通貨の利便性、その利便性を享受する企業・個人の消費・投資行動により大きな経済効果を生み出すことは確実であり、より大きな資金が欧州へ流れ込むことになるかと思います。資金流入に対して、実体のある経済、ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)をより強化していくことが、欧州各国、企業に求められていくこととなります。

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【参考】
社債市場の活性化に関する海外調査報告 -「社債市場の活性化に関する懇談会ワーキング・グループ」事務局
ユーロ、安全資産として再浮上の可能性 -ウォール・ストリート・ジャーナル

photo:Euro 3 / wfabry