私たちの財布の中に入っている1万円札が、ある日廃止されることになったら、と考えたことはあるだろうか。実際に世界では、国や地域で発行している高額紙幣を廃止する動きがある。

この記事では、高額紙幣の廃止についてさまざまな角度から検証してみたい。

高額紙幣廃止のメリット・デメリット

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(写真=PIXTA)

まず、高額紙幣を廃止するメリット、デメリットについて考えてみよう。 高額紙幣を廃止するメリットとしては、マネーロンダリングの防止、アンダーグラウンドマーケット (現金による闇取引) が減ることによる税収増、偽札犯罪の防止、紙幣製造 (回収) 費用の削減、電子マネーの普及が進むことなどが挙げられる。

反対にデメリットとしては、現金決済を望む場合はより多くの紙幣を持ち歩く必要がある (消費者の利便性が低下する) 、タンス預金がしづらくなる (現金保有の管理コストが大きくなる) 、現金収入を望む商店の資金繰りが悪化することなどが挙げられる。また、紙幣に印刷される著名人や建造物の著名度が下がり、国民の文化レベルが低下するという意見も少なからずあるようだ。

高額紙幣廃止が日本で話題にならないのはなぜ ?

現在、流通している最も高額な紙幣と言われているは、シンガポールが発行する1万シンガポールドル (約83万円) の紙幣だが、2014年10月に発行を中止している (既に流通している紙幣を使用することは可能) 。2016年5月には欧州中央銀行より、2018年末を目処に500ユーロ札 (約6万7,000円) の廃止が発表された。2016年11月には、インドも高額紙幣の廃止を決めている。しかし、二番目に高額な紙幣と言われているスイスの1,000スイスフラン (約11万5,000円) 紙幣が廃止される動きはない。

このように、世界では高額紙幣を廃止する国や地域がある一方、日本に住んでいると高額紙幣を廃止することを考えたことがない人も多いだろう。日本で高額紙幣を廃止する話が盛り上がらないのは、日本国内では高額紙幣を含めた現金の流通割合が高いからである。つまり、1万円札を日常的に使っていて、身近な存在で不要だと思う人が少なく、廃止する理由が見当たらないのだ。

日本人が現金を好む理由は ?

確かに現金流通額の名目GDP比率を見てみると、アジアの国々では、その比率が高い傾向にある。とりわけ、日本での現金流通額のGDP比率は高い。日本人は、他国の人々より、現金で支払う国民性であることが読み解ける。

現金を好むのは、治安の良さも理由のひとつだろう。お金を盗まれることや恐喝などの犯罪に巻き込まれる不安が少ないので、現金を大量に持ち歩くことができる。紙幣の偽造も少なく、紙幣自体への信頼も高い。また、汚れてしまった紙幣や硬貨は日本銀行が回収して、紙幣も硬貨も一定のきれいさを保っている。このように紙幣に対する信頼性が高いのも特徴だ。 また、近年、タンス預金という言葉が頻繁に聞かれるようになったことからも、現金を自宅に保管している人が多いと推測される。これは、現金を目の届くところに置いておきたいという防衛本能の表れと言われているが、家の中に現金を置けるのも治安が良いからできることである。

日本での廃止は、現状では考えにくい

高額紙幣を発行する理由としては、経済成長に伴い、インフレに対応するためや、不動産や車などの高額取引が増えたためという理由がある。犯罪の温床になるなどのデメリットを上回るメリット (スムーズな高額消費で経済がより活発化されるなど) が見込めるので、高額紙幣の発行に踏み切ったわけだ。

反対に、高額紙幣を廃止する際も、基本的には廃止に伴うデメリットをメリットが上回らないといけない。1万円札は多くの国民に、決済の手段として、もしくは保管の手段として利用されている。この現状を考えると、1万円札が廃止される確率は低いと言えるのではないだろうか。
※ 為替レートは2017年10月現在(提供:大和ネクスト銀行

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