世界経済を左右するほどの存在感を放つ中国。この国を知るためには、貿易統計の傾向を把握することが欠かせない。2021年は中国の貿易総額が大きく伸びたが、現状はどうなっているのだろうか。注目すべき輸出・輸入セクターや、消費者物価指数から見える国内消費の動向を分析。今後の中国経済を予想する。

目次

  1. 2021年中国の貿易収支は?
    1. 国・地域ごとの貿易総額は?
    2. 米国との輸出入額が過去最大に
  2. 輸出が多かった品目、伸びた品目は?
  3. 輸入が多かった品目、伸びた品目は?
  4. 2022年5月時点の中国経済の状況
    1. 新型コロナウイルス感染症の再拡大や、ウクライナ問題が影響
    2. 消費者物価指数に注目
  5. 今後の中国経済は?

2021年中国の貿易収支は?

2022年1月に中国・海関総署(輸出入の管理や税関事務を行う機関)が発表した統計によると、2021年の年間貿易総額(ドル建て)は6兆515億ドルとなり、前年から30%増えた。

貿易総額とは輸出額と輸入額の合計のことで、内訳は以下のとおり。輸出・輸入ともに過去最高額だ。

  • 輸出: 3兆3,640億ドル(前年比29.9%増)
  • 輸入: 2兆6,875億ドル(前年比30.1%増)

輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支では、輸出額が輸入額を上回ると「貿易黒字」となる。年間貿易収支は6,765億ドルの黒字で、こちらも過去最高となった。

貿易黒字が大幅に伸びた背景には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響がある。2021年は前年の感染拡大で落ち込んだ経済が回復し、世界的に貿易量が増加した。

国・地域ごとの貿易総額は?

中国の主要国・地域との貿易総額ではASEAN(東南アジア諸国連合)が最大で、次いでEU(欧州連合)、アメリカとなっている。輸出入額は以下のとおり。

<国・地域ごとの貿易総額と輸出・輸入額>

国・地域貿易総額輸出額輸入額
全体6兆515億ドル3兆3,640億ドル2兆6,875億ドル
ASEAN8,782億ドル4,837億ドル3,945億ドル
EU8,281億ドル5,182億ドル3,099億ドル
アメリカ7,556億ドル5,761億ドル1,795億ドル
日本3,714億ドル1,658億ドル2,056億ドル
出典:中国海関総署の発表/JETRO

米国との輸出入額が過去最大に

特筆すべきは、年間のアメリカへの輸出・輸入額が過去最大となったことだ。輸出・輸入ともに前年比で3割近く増え、アメリカとの貿易総額は29%増の7,556億ドルとなった。

ただし、内訳を見ると輸出が5,761億ドル、輸入が1,795億ドルとなっており、貿易摩擦(輸出と輸入が不均衡な状態)が生じていることがわかる。

輸出が多かった品目、伸びた品目は?

輸出では自動車が前年の2.2倍となり、精密機器などの製造に不可欠なレアアースの輸出も増加している。医薬品やノートパソコン、タブレット、家電製品などの輸出も好調だった。

これらは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でワクチンや「巣ごもり」関連品の需要が高まったことが背景にある。ベトナムなどの東南アジアやインドで新型コロナウイルス感染症が再拡大したことも影響している。

輸出全体額の約17%を占めるアメリカへの輸出では、携帯電話や衣類、プラスチック製品などが伸びた。

輸入が多かった品目、伸びた品目は?

最大の輸入品目は集積回路で、原油も鉄鉱石も増えている。

近年、中国の市場や技術が拡大し、製造業の高度化・自動化が進められる中、集積回路の輸入が急増している。2010年の1,580億ドルから2020年には3,524億ドルと、10年で2倍以上となった。

ハイテク製品に欠かせない集積回路の供給を輸入に依存していると、アメリカなどによる輸出規制によって基幹産業が打撃を受けかねない。中国政府は集積回路の自給率向上を目指すが、依然として輸入率は高いままだ。

2022年5月時点の中国経済の状況

新型コロナウイルス感染症の再拡大や、ウクライナ問題が影響

2021年は輸出入ともに前年からの伸びが顕著だったが、現状はどうなっているのだろうか。2022年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻や、中国国内の新型コロナウイルス感染症の再拡大の影響を受けているようだ。

4月単月の中国の貿易統計では輸出は前年同月比3.9%増の2,736億ドルと、3月の15%増から大幅に縮小した。輸出入の総額も2.1%増で、2020年6月以来最低の伸び率となった。

急減速の背景にあるのは、中国最大の経済都市である上海市が新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために、2021年3月末から行っている都市封鎖(ロックダウン)だ。政府が外出を厳しく制限したり、工場の操業を停止したりする「ゼロコロナ規制」も相まって、物流が大きく乱れている。

また、ロシアの軍事侵攻によって世界的にエネルギー市場が混乱しており、原油価格が高騰している。中国が外国から輸入した原油の金額は、前年から8割増加した。しかし、アメリカやEUはロシア産原油の禁輸措置を取っており、輸出先を失ったロシアは原油を割安な価格で中国などアジア向けに供給する傾向にある。中国とロシアとの貿易総額も17%増えている。

消費者物価指数に注目

中国国内の需要にも注目したい。5月11日に発表された4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.1%上昇し、1.5%上昇した3月よりも上昇幅が拡大した。貿易収支と同様に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるロックダウンやウクライナ問題でのエネルギー価格高騰の影響によるものだ。

品目別では生鮮野菜が24%増、他に卵など食品の価格が上がり、ガソリンなどの燃料価格も3割上昇した。ガソリン価格が上がったことで運送費が膨らみ、食品の価格が高騰しているわけだ。

ゼロコロナ規制によって厳しい行動制限が行われたことで、旅行や娯楽の需要も落ち込んだ。雇用も悪化し、個人消費は冷え込んでいる。

今後の中国経済は?

新型コロナウイルス感染症が、一時的に落ち着きを見せていた2021年の中国は、輸出入ともに好調だった。2022年5月現在、感染者数は落ち着いているが油断はできず、規制が続いている。

しかし、今後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が終息すれば、中国を含む世界経済が回復し、抑圧されていた消費行動が急激に再開される「リベンジ消費」などが期待できる。行動規制が撤廃されれば、交通や観光セクターの業績も回復するだろう。

アメリカやEUがロシアに厳しい制裁を行う中で、中国とロシアの貿易がさらに増加する可能性もある。国を挙げて新型コロナウイルス感染症の終息を目指す中国政府の策に加え、ロシアをめぐる世界情勢の動きにも注目し、今後の中国経済をウォッチしたい。

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