『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』という書籍が、全世界200万部の大ベストセラーとなりました(2019年12月時点)。とくに日本での反響は大きく、2019年間ビジネス書・実用書ランキングで1位(Book Live調べ)に輝き、50万部を売り上げたほどです。

ビル・ゲイツはこの書籍を「名作中の名作。世界を正しく見るために欠かせない一冊だ」と絶賛、2018年にアメリカの大学を卒業した学生のうち、希望者全員にこの本をプレゼントしたとか。バラク・オバマ元アメリカ大統領も「思い込みではなく、事実をもとに行動すれば、人類はもっと前に進める。そんな希望を抱かせてくれる本」と賛辞を送っています。

また日本では、オリエンタルラジオの中田敦彦さんが自身のYou Tubeチャンネルでこの本を紹介し、再生回数計200万回に達したことでも有名です。

まずはクイズにチャレンジ

ファクトフルネス,思い込み
(画像=ANDRANIK HAKOBYAN/Shutterstock.com)

『ファクトフルネス』は、スウェーデンの公共衛生学者であるハンス・ロスリング氏が息子夫婦と共に書いたもので、自身の長年の経験から「データを基に世界を正しく見る」ことの難しさと、そうであるがゆえにその大切さを力説しています。

突然ですが、ここで本書にも登場するクイズを出しましょう。是非、チャレンジされてみてください。

Q1. 現在、低所得国に暮らす女子の何割が初等教育を修了するでしょう?

A.20%
B.40%
C.60%

Q2.世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?

A.20%
B.50%
C.80%

Q3. 世界中の30歳男性は、平均10年間の学校教育を受けています。同じ年の女性は何年間学校教育を受けているでしょう?

A.9年
B.6年
C.3年

正解は、Q1がC、Q2がC、Q3がAです。いかがだったでしょうか。意外にも、もっとも好ましい答えが正解であるのです。ハンスは世界中のあらゆる会合でこのようなクイズを出しているのですが、Q2の正解率は、日本ではたった6%だったそうです。

それでは、クイズを受けた人たちは学歴が低く、充分な教育を受けていない人たちなのでしょうか。いえ、そうではありません。ハンスはこのクイズを世界中のエリートたち―ノーベル賞受賞者も含まれる―に試しています。そのエリートたちが世界についての基本的な事柄さえ知らないということが明らかになったわけです。

ハンスは次のように言います。

「ここ数十年間、わたしは何千もの人々に、貧困、人口、教育、エネルギーなど世界にまつわる数多くの質問をしてきた。医学生、大学教授、科学者、企業の役員、ジャーナリスト、政治家など、ほとんどみんなが間違えた。みんなが同じ勘違いをしている」

分断本能とネガティブ本能

なぜこうしたことが起こってしまうのでしょうか。それは、人間はデータからではなくドラマ(物語)から世界を見る本能があるからです。心理学用語では「認知バイアス」と呼ばれるものです。

本書では10種類のバイアスが指摘されているのですが、そのうち「分断本能」「ネガティブ本能」の2つについて見ていきましょう。分断本能とは「世界は分断されている」という思い込みです。たとえば、先進国と途上国、金持ちと貧乏人、敵と味方、正義と悪などなど。単純な二項対立の図式で世界を見てしまう傾向があるのです。

日本を含めた先進国と呼ばれる地域で暮らしている人たちは、「低所得国に暮らす女子には初等教育の機会が充分に与えられていない」という思い込みを抱きがちです。これはQ1のクイズですが、実際は60%の女子が初等教育を受けています。

またネガティブ本能も根強い思い込みの一つで、人びとは勝手に「世界はどんどん悪くなっている」と考えています。たしかに、テレビをつけると中東での軍事的衝突が取り上げられ、欧州でのテロ事件、航空機の墜落事故などが連日報道されています。「世界は恐ろしい」「世も末だ」と思っても仕方がないかもしれません。

実はマスメディア側も人間がネガティブ本能を持っていること知っていて、あえてセンセーショナルに描いている側面があります。そのほうが視聴率を稼げるからとの指摘もあります。

こうしたことに、ハンスはデータを以て反論します。たとえば、航空機の事故は80年あまりで激減しています。100億旅行マイルあたりの死亡者数は、1929~1933年の5年平均で2,100人だったものが、2012~2016年ではたった1人になっています。実に0.0005%まで減ったのです。その他、戦争や紛争の犠牲者、乳幼児の死亡率、飢餓、災害による死亡者数も劇的に減少しているのです。

ビジネスに応用するとすれば

さて、本書のエッセンスを踏まえた上で、ビジネスに応用するとすればどういうことが言えるでしょうか。

本書の中でもマーケティングの話題が出てきます。「分断本能によって、『アフリカ諸国は途上国なので投資機会はない』と思いこんでいる投資家が多いが、それらの諸国の成長の速度を考えると大きなビジネス・チャンスがあるのだ」とハンスは指摘しています。

私たちを取り巻くビジネス環境に引き寄せて考えても、同じようなケースはあるのではないでしょうか。たとえば、大手企業ばかりを取引相手にしていると、日本は中小企業のほうが多数派であることを忘れてしまうことがあります。それは、大きな機会損失になっているのではないでしょうか。

思い込みを捨て、データに基づき世界を正しく見る習慣を持つことは、ビジネスを正しく進めていくための大きな鍵になるのではないでしょうか。

※参照図書『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(提供:自社ビルのススメ


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