不動産事業はその地域に根ざすことが欠かせないため、日本企業の海外での展開は資金力と日本での開発のノウハウを生かした開発分譲(売り切り)型の事業がほとんどである。そのような中で独自のグローバル不動産事業を展開しているのが「リストサザビーズインターナショナルリアルティ(リストグループ)」だ。その特長と経緯をグループ代表の北見尚之氏に聞いた。

地域密着とグローバルブランドを融合させた唯一無二の「不動産のグローカル企業」へ(リストグループ代表 北見氏)
(画像=リスト サザビーズ インターナショナル リアルティ)

——現在の事業の特長を教えてください。

大きく分けて2つあり、1つめはクロスボーダーの不動産の仲介/販売を手掛けていることです。日本では東京・神奈川に10拠点、海外ではアジア太平洋地域で5拠点(注1)あります。同じ1つのグループですから、拠点間の海外不動産売買の際にもスムーズに現地の制度の説明を受け手続きを進めることが可能です。加えて、「サザビーズ インターナショナル リアルティ®」のネットワークにより世界69の国と地域に繋がり先進のマーケティングを導入しています。このネットワークの起源はサザビーズオークションハウスにあり、我々は2010年からその一員です。

2つめは、その仲介/販売と不動産開発投資を並行してボーダーレスで事業展開/連携させることにより、継続的な事業拡大が可能となる独自のビジネスモデルを構築していることです。不動産開発投資においては、ハワイでは既にワン・アラモアナという高級コンドミニアムでの成功実績があり、フィリピンほか東南アジアに拡大中です。

(注1)香港、シンガポール、フィリピン、ハワイに2つ、今秋にはタイ/バンコクに開設予定。

——独自のビジネスモデルの強みを具体的に説明していただけますか。

例として数年前の日本でのマレーシアへの不動産投資ブーム(注2)で説明します。当時一定数の日本人が現地の不動産を購入しましたが、多くのトラブルが発生しています。海外不動産を日本人が購入する際の多くは、現地の分譲/販売者と契約を結ぶため、極端に言えば誰でも取り次ぐことができます。ここがトラブルのもととなりやすいのです。日本の不動産免許を持つ当社では、海外不動産取引でも日本の基準に準じて仲介/販売しますから安心いただけます。移住を考えて購入した方でも資産価値は気になるでしょうし、投資に重点を置けばなおさらです。

購入した後に、「賃貸に出したい時」「売却したい時」に不動産がある現地につながりを持っていないことは致命的で有効な手立てを打てない可能性が高い。ですから、私たちはまず先に現地に店舗を開設することから始めます。それも現地の人間で運営します。そうすることで、その地域にどのようなお客様がいるのか、どのような物件が適切なのか、現地の不動産マーケットの現状が見えてきます。労力やコストはかかりますが、そうすることで、不動産取引に関する悪評がまた一つ積み上がる事を防げます。不動産取引でもグローバル化が進む世界の中で、日本だけが取り残されることへの危機感が強烈にあります。

(注2)住むだけならよくても、不動産投資(購入)では失敗しやすい状態になっている。そこで失敗する投資家が出ても、デベロッパーは建てれば儲かる状態が形成されているので、開発は玉石混交で進む。「マレーシア 不動産 投資 失敗」で検索するとかなりの数の投資失敗例を見ることができる。

——不動産に関する従来からの慣習や評判に囚われない取り組みということでしょうか。

日本の大手デベロッパーのような資金力も人的余裕もない我々には、独自の活路を開く取り組みは当然です。私が不動産で起業したきっかけも根っこは同じです。20歳過ぎに働いた事業会社でバブル時代の不動産会社と関わりました。その会社の担当者の態度は失礼だしビジネスの基本もできていないし「なんて業界だ」と感じたことが強く印象に残っています。

逆に言えばその部分に丁寧に真剣に取り組めばチャンスも大きいのではないか、社会からのニーズにも応えられるのではないか、とも思いました。それで、「不動産のスペシャリスト」集団になるべく社名を「リスト」として1991年に創業しました。スタートは3人でした。

——過去に囚われない独自の取り組みは他にどのようなものがありますか。

企業レベルでは、会社として独自の強みを作って継続させるために創業3年目から新卒採用を開始、2015年からはハーバード大学などがあるアメリカで開催されるボストンキャリアフォーラムからの新卒採用も始めました。事業のグローバル化への対応です(注3)。開発分譲から証券化や開発投資まで不動産のあらゆる領域をワンストップで提供することも我々の規模としては珍しいですが、お客様視点で創業期からずっと大切にしています。最近は他社も複数注力していますね。

お客様視点で言うと、日本で初めて業界に先駆けて2011年から中古戸建て住宅のかし保証保険サービスの提供を開始、日本でもトップクラスのアフターサービス「List365」では水周りや鍵トラブルへの24時間365日駆けつけサービスと不動産以外の健康や子育てなど様々な生活相談ができる電話対応などを契約者の方に基本無料で提供しています。住まいは日々の暮らしに直結すると考えているからです。

(注3)現在は英語のネイティブスピーカーの講師も社内に常駐

地域密着とグローバルブランドを融合させた唯一無二の「不動産のグローカル企業」へ(リストグループ代表 北見氏)
(画像=リスト サザビーズ インターナショナル リアルティ)

昨年引渡しの始まった日本最大級のエコタウン「リストガーデンnococo(ノココ)タウン」は横浜市で全棟160戸がBELS最高基準の5つ星(注4)を取得しており、他にもいくつもの工夫と先進の技術を盛り込んでいます。昨年オープンした銀座支店は銀座中央通りの中心部に面しています(注5)が、他社の店舗は離れていますね。改めてあげていくと沢山あります。

そして、今は「グローカル」です。まずは地域に密着/精通した企業を築いて、そのエリアを活性化させること、いわゆるローカライズです。一方で私達が海外展開する際には「サザビーズ インターナショナル リアルティ®」のブランドパワーにより国境の障壁が低くなります。他国の企業が進出してきたネガティブではなく、グローバルブランドがもたらすメリットへの期待が醸成され、その知名度/信頼度は現地では競争力の源泉になります。この相乗パワーが「グローカル」です。

(注4)BELS:国が定めたガイドラインに基づく建築物省エネルギー性能表示制度。星の数で評価を表し、5つ星は最高ランク。
(注5)明治屋ビル:1-3階はダンヒル。大手を含めほとんどの不動産会社は賃料の高いメインの通りには出店していないが、同社は国内の一般仲介だけでなくインバウンド/アウトバウンド顧客も視野に入れた店舗運営を行っている。

——これまでで最大の試練は何ですか。

2008年9月に起こったリーマンショックです。2008年と2009年の2期合計で約30億円の損失を計上しました。周囲の不動産開発会社が倒産を重ねる中で、採用とOJTに注力することで成長してきた営業マンの頑張りにより、日々の仲介のお客様は当社から離れることはなく売上げはさほど落ちませんでした。また日頃からの事業姿勢を評価していただく金融機関からの支援も得られ、何とか倒産は免れました。

——今後の展望と経営者として大切にしていることを教えてください。

以下の4つを大切にしています。ひとつひとつご説明したいと思います。

1.礼儀礼節に始まり当社のファンを増やす
不動産業は人の一生を左右する大事なものを販売しますから、何よりも信頼が命です。その大元となるのが社員の態度や言葉遣い、立ち振る舞いに現れる礼儀・礼節です。そうした姿勢でお客様にも、同時に社員にも「リストファン」になってほしい。そのため、お客様に感動してもらえるような物件を販売/仲介し続けるのが当社の務めと信じています。

2.ファンを増やすための有言実行&チームワーク
信頼を周囲の人々から勝ち取るには言ったことを実行するのが一番。これを反対側から見ると「できないことは言わない」。ギリギリの目標を社員と共有し、それを実現して社員の信頼を勝ち取ることも経営者には大切です。チームワークもとても重要です。優れた個人だけでチームとして機能しないと会社が大きく発展しません。私が好きなトライアスロンの「水泳」「自転車」「ランニング」リレー形式競技ではチームメイトの努力を無駄にしたくない想いで自分も思いのほか頑張れます。この爆発力を生むのがチームワークです。

3.永く続く企業の基盤をつくるために常にチャレンジ&チェンジ
チャレンジ&チェンジが当社の危機も救いました。リーマンショックの影響で大きく落ち込んだ収益が2010年にV字回復できたのは、上大岡駅前(横浜市港南区)の再開発が実現し、マンションを販売できたからです。再開発用の土地を取得した当時、会社は50億円程度の売上にもかかわらず43億円を投入。このチャレンジに挑戦し、成功できたからこそ次へのステップアップが可能となりました。

4.チャレンジ&チェンジの具体化としてのアジアから太平洋アメリカまでの事業展開
人口減少や経済規模縮小、経済のグローバル化の進行と、日本の中小不動産会社にとって今後は厳しい状態が訪れると予測しています。そんな厳しい状況を乗り越えて会社をさらなる成長軌道に乗せるには、やはり「チャレンジ&チェンジ」しかありません。世界的に有名なオークションブランド「サザビーズ」の不動産ネットワークを利用して、富裕層向けの事業に進出したのも大きなチャレンジ。ハワイや東南アジアへの進出も、リストグループとして今後を見据えてのチェンジです。

——「リスト サザビーズ インターナショナル リアルティ」では、日本の富裕層にどのようなサービスを提供しているのでしょうか。

世界の基軸通貨はドルなので、日本人の場合、日本円だけで資産を構成すると常に為替変動リスクにさらされます。特に資産規模が大きい富裕層は尚更です。そのうえでお伝えしているひとつのアイディアが、あのリーマンショック時でも7%の下落に留まり、長期的な上昇トレンドにあるハワイ(オアフ島)の不動産を持つことです。米ドル建てとなりますので資産の分散管理にも最適です。投資目的だけではなくセカンドハウス目的で探している方もいらっしゃいます。

海外不動産の購入は、言葉や土地勘の観点から、信頼できるパートナー選びが重要です。そのようななか、270年以上の歴史を持つ世界最古のオークションハウス「サザビーズ」に起源を持ち、グローバル規模で事業を展開している富裕層向けサービスと聞けば、信頼して頂ける方も多いのではないでしょうか。資産分散にお悩みの方、外貨建て資産を探しているけどもなかなかご縁に恵まれない方は一度我々にご相談頂ければと考えております。

北見 尚之(きたみ ひさし)
1965年横浜市港南区生まれ。父親は東京郵政局勤務の国家公務員で不動産業とはまったく縁はない。机上での勉強が好きになれず希望する大学への入学が叶わず、税理士を目指す専門学校に通う傍らでアルバイトをしていたジャズバーの常連客である上場企業経営者に出会い、その社長の運転手兼秘書兼出店責任者に。その出店責任者として不動産会社と折衝を重ねたことが起業の契機となった。

創業~地域密着&ワンストップの不動産サービスへチャレンジ
1991年、創業
1995年~2004年、ビルマネジメント/一戸建て住宅分譲/新築マンション分譲/アセットソリューションの各事業と支店展開を開始
2001年、売上げ100億円到達
2006年、横浜DeNAベイスターズのスポンサード開始
2008年-09年、リーマンショック
2009年、横浜マリンタワー再生事業開始、季刊地域情報誌創刊

不動産取引のグローバル化~独自の「グローカル」総合不動産事業グループへ
2010年、上大岡駅前再開発事業(mioka開業)、スポGOMI(注6)を神奈川県内で開始
2012年~13年、「ワン・アラモアナ(ハワイ)」事業参画、ハワイに拠点開設
2014年、List Sotheby’s International Realtyアジアパシフィック圏内の全店舗ブランド統一
2015年、投資運用業登録、東京本部(港区芝)開設
2016年~18年、フィリピン/ハワイ第2/シンガポール/香港/タイ(秋予定)に拠点開設、国内最大規模のグローバルウェブサイト開設~アジア太平洋圏を1ストップで対応可能に

(注6)ゴミ拾いを競技化して、若者やファミリーも楽しんで参加できるようにした日本発祥のスポーツで、リストグループはCSRとして累計100回、2018年にはハワイでも開催。