電通が発表した2015年の日本の総広告費は6兆1710億円、前年比100.3%と、その増加は非常に幅に留まった。伝統的な4媒体が減少しているのに対し、インターネット広告のみ前年比で伸びており一人勝ち。
とはいえ、テレビは2兆弱、ネットは1兆弱と依然、大きな差ががある。果たしてここが入れ替わる日はくるのだろうか。
2022年ごろにはネットがテレビを抜く?
まず主要媒体別に見てみると、テレビメディア(地上波テレビ+衛星メディア関連)1兆9323億円(前年比98.8%)、新聞 5,679億円(同93.8%)、雑誌 2443億円(同97.7%)、ラジオ 1254億円(同98.6%)−−と伝統的な4媒体が減少しているのに対し、インターネットは9194億円(同111.5%)と一人勝ちの状態で、従来の4媒体の減少をネット広告の成長が補ったかたちだ。
テレビ広告費は1兆9323億円で総広告費に占める割合は31.3%と依然として最大だが、その他の新聞・雑誌・ラジオ広告のシェアは減少の一途をたどっている。
ネット広告費は9194億円で2013年以降毎年二桁成長しており、シェアは2015年では14.9%とテレビ広告費の半分にまで迫っている。この勢いが続くと仮定すると、「2022年ごろには広告媒体としてのネットがテレビを抜き去る」との試算も成り立つほどだ。
質も向上しているネット広告
主要4媒体の広告制作費が3,068億円(前年比98.3%)であるのに対し、ネット広告制作費は2,400億円(同105.5%)と、媒体費だけではなくネット広告制作費も4媒体広告制作費に迫っており、追い抜くのも時間の問題だ。
モバイルアプリ、ウェブ動画、ソーシャルメディア連携など、ネット広告の種類が多岐に広がっているためだ。またネット広告に以前よりもコストをかけるクライアントが増えていることもその要因だ。
長らくテレビ広告は広告の王様であった。それに対しネット広告が立ち上がった当初は、マス広告に対して非常にニッチで、あくまでもマス広告を補完するカテゴリーとの認識が一般的だった。
そのため、媒体費、制作費とも非常に低く設定されていた。現在もその条件は改善されたとは言い難い。それにも関らずこれだけの規模と伸びを果たしている。ネット広告がここまで成長し、テレビ広告を脅かす存在になると、どれだけの人が想像していただろうか。
ネット広告がさらに成長して、テレビ広告を凌駕(りょうが)することも現実的に考える必要があるだろう。
テレビ広告はこのままジリ貧なのか
テレビ広告はブランド認知やブランドイメージをつくるための、いわゆるブランディングに最も適した強力な媒体とされてきた。そのため媒体費と制作費はともにもともと非常に高く設定されている。
テレビ広告を打つには莫大な費用、リターンを求める観点から言えば大きな投資が必要だ。一方、ネット広告はニッチ広告というその成り立ちから媒体費・制作費ともテレビ広告に比べれば安価に設定されている。
ネット広告が伸びているのは、絶対的な広告活動が圧倒的に増えていることを示している。
テレビというビジネスモデルがなくならない限りは現在のテレビ広告は残るはずだ。だが規模の縮小傾向は当分続くだろう。
現在のテレビ視聴者は中高年以上が主要ターゲットになっており、若年層でのテレビ視聴が減っているからだ。
「ニュースもテレビもスマホで見る」、「スマホでじゅうぶん」という人に若年層にとって、テレビはもはや必需品ではなくなりつつある。人口減も考えると、絶対的な視聴者数は長期的には減る。
つまり相対的な媒体価値、広告価値は下がることになる。
テレビ広告の生き残り策、ネット広告の死角
テレビという媒体の最大の強みは、コンテンツ制作力だ。コンテンツ制作には非常に高度な経験値とノウハウが必要で、これを蓄積しているテレビはネット媒体よりもはるかに大きなアドバンテージを持っている。
だが視聴者層の変化や視聴者数の減少などによってその地位は徐々に下がってくる恐れがある。また視聴環境も大きく変わりつつある。テレビ広告もこのような変化をマイナスではなくプラスに捉える発想が重要だろう。
ネット広告の主戦場はすでにPCからスマートフォンに移っている。検索連動型広告をはじめ、運用型ディスプレイ広告、ソーシャルメディアやYouTubeに代表される動画コンテンツ視聴における運用型動画広告などはすでに基本メニューとなっている。ここでは、新たな手法としてユーザーの位置情報や地域情報、行動ログなどのデータを元にターゲティングする新たな広告配信モデルが次々と誕生している。
だが、これらはあくまでもターゲットへの接触方法についての手法であり、ネットで提供されるコンテンツはまだテレビには及ばない。もちろんネット上で展開される広告キャンペーンはすでに多数あるが、それを目的にネット広告に接触させるのはまだ難しい状況だと言える。
広告のコンテンツ化がカギ
テレビとネットに共通するのは、「ディスプレー」というデバイスだ。テレビ広告とネット広告はいずれも、そのデバイスとの接触時間、接触頻度をめぐる活動と言える。接触率を高めたり視聴者の行動を予測したりすることはもちろん重要だが、そのためには単純にメッセージを送る以上のことを、テレビやスマートフォンのディスプレイ上で展開する必要がある。
そのカギとなるのは「コンテンツ化」だ。
ここで言うコンテンツとは、番組や動画はもちろん、企業の商品やサービスを視聴者に向けてより興味と価値がある形で提供することを指す。
テレビ画面でもスマホの画面でも、それらのディスプレー上で視聴者にとって最も価値があるのはコンテンツであり、彼らが期待する以上の形でコンテンツとして提供することがテレビ広告、ネット広告ともに発展するために欠かせない。
企業も広告代理店も、従来の広告の概念を修正・拡大し、視聴者がもっと能動的にアクセスするコンテンツとして定義し直し、いま以上にネット広告とテレビ広告の区別をなくす必要がある。(ZUU online 編集部)