投資信託,銀行窓販
(写真=Thinkstock/Getty Images)

「この投資信託を買うかどうか迷っているんだよね…」
「これはとても良い投資信託ですよ。私も買っています」
「そうか、銀行員のあなたが言うなら安心だ。利益確定のタイミングも教えてもらえるね。よし、この投資信託を買うことにしよう」
「ありがとうございます。一緒に利益が出せると良いですね」

もし、あなたがこの銀行員の上司だったら、どう評価するだろう。プロのセールスが身銭を切って買っているなら、この商品は決して悪い商品ではないとお客様は安心する。もうひと押しという商談の大詰めで「私も買っています」は一気に流れを変えてしまう魔法の言葉だ。もし、「私はこんな商品は買いません」と答えようものなら、きっと場の雰囲気に水を差すことになるだろう。最悪の場合、お客様は購入を断念してしまう可能性すらある。セールスのツボを押さえているこの銀行員を上司のあなたは褒めるかも知れない。ひょっとすると、朝礼でこの成功談をみんなの前で披露するかも知れない。

それは魔法の言葉であり、悪魔の言葉でもある

しかし、もし私がその銀行員の上司なら、厳しく叱責するだろう。決して意地悪では無い。金融機関で金融商品を販売するにあたっては、顧客と損益をともにすると解釈されるセールストークは許されないのだ。

銀行員が金融商品を販売するにあたり、証券外務員規則というものを守る必要がある。顧客を保護するために定められているルールである。ここでは顧客と損益をともにするような行為は厳に禁止されている。「私も買っています」「一緒に利益を出しましょう」といった言葉はこの規則に抵触する可能性が極めて高い。私の感覚ではこれはアウトだ。こうした言葉はセールスでは顧客に安心感を与える魔法の言葉だが、それによって顧客は不利益な判断を行ってしまう可能性がある。それを防止するためのルールである。冷静に考えてみれば、銀行員が買っている商品が必ずしも今後上昇するとは限らない。

銀行員が金融商品を販売するには証券外務員資格を取得しなければならない。資格取得のためには試験に合格する必要があり、こうした行為が禁止されていることはすべての銀行員が学んでいるはずである。にもかかわらず、実際にはそれが守られていないケースもある。決して悪意でルールを無視している訳ではない。お客様の不安を取り除きたいという善意から出た言葉には違いないが、それでもルールを逸脱している可能性は免れない。

これは銀行員の「資質を見極める」言葉である

「私も買っています」は魔法の言葉であると同時に悪魔の言葉でもある。この言葉を使うかどうかであなたは銀行員の資質を見極めることが可能だ。銀行員が決して悪意でこの言葉を使っているとは考えにくい。この程度のことで相場を意図した方向へ動かすことなど不可能である。しかし、金融商品の販売にあたっては何よりもコンプライアンスが重視される。どんなに知識が豊富なセールスマンであっても、規則を守らないようなセールスマンを褒めることはできない。

「そんな些細な規則なんて実際には何の影響も無い」。確かにこの規則を逸脱したからといって、お客様が直接不利益を被る可能性は低いかも知れない。しかし、ルールを無視するようなコンプライアンス意識の低い銀行員とあなたは付き合うべきでは無い。その銀行員は勉強したはずのルールを忘れているのかも知れないが、それはそれで酷い話だ。

「そんなに良い投資信託ならあなたも買ってるの?」。私自身、そうお客様からたずねられることが実際にたくさんある。投資信託を販売したいという気持ちがあれば「はい、私も買っています」と答えたくなる誘惑に駆られることがある。もし、ここで「いいえ、私は買っていません」と、答えてしまえば場の空気が一気に冷めてしまうことは容易に想像出来るからだ。しかし、たとえそれが原因で契約を逃したとしても、決してルールを逸脱してはならない。

では、私はどのように返答しているのか。「残念ながら、私はこのファンドを購入しておりません。もし、私がこのファンドを買っているなら、たくさんのお客様に買って頂いて基準価額が上昇したタイミングで売り抜けようと考えます。お客様のニーズを無視した販売を行わないよう私は自分の銀行で取り扱っている金融商品は持たないことにしています」。

試しに銀行員にたずねてみるといい。「あなたも買っているの?」ーーコンプライアンス意識の高い銀行員や、自分の仕事に自信と誇りを持っている銀行員ならキッパリと答えるはずだ。「私は買っていません」と。(或る銀行員)

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