決算短信投資術
(写真=PIXTA)

決算短信とは?

3月決算企業の決算発表が本格化しつつあります。そこでしばらくの間銘柄フォーカスでは、「決算短信投資術」と題して企業が発表する決算短信を投資に活用する方法をご紹介します。

まず、決算短信について整理しておきましょう。決算短信とは企業が決算情報を開示する書面を指します。より正式な発表は有価証券報告書で行われますが、有価証券報告書は決算後3ヶ月以上経過してから開示されるため、速報性に難があります。

そこで、金融商品取引所は企業に対しより早く業績を開示させるべく決算期末後45日以内に決算短信の開示を求めています。決算短信はあくまで速報値という位置づけですが、十分精査されて開示されているため投資の参考資料として十分に活用することができます。

日本企業は決算を累計値で発表する!

本日のレポートタイトルは「企業決算は3ヶ月ごとのトレンドをチェックする」としていますが、「そんなの当たり前じゃないか!企業は四半期ごとに決算を発表するのだから」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

それはまさにそのとおりなのですが、わざわざこのタイトルをつけたことには意味があります。それは、日本企業は原則として決算短信で業績を累計値でのみ発表するということです。

例えば3月決算企業であれば、「4-6月期」「7-9月期」「10-12月期」「1-3月期」の4回に分けて決算発表を行うわけですが、「7-9月期」は「4-9月」、「10-12月期」は「4-12月」、「1-3月期」は「4月から翌年3月までの1年間」と、企業は累計値で業績発表を行います。

これによって、累計値と3ヶ月単位でチェックするのとでは違った姿が浮かび上がってくるということが発生します。具体例を見ながら確認していきましょう。

松屋 <8237> の決算で累計値と3ヶ月の乖離を分析

以下は、銀座などにデパートを展開する松屋 <8237> の平成28年2月期の第3四半期の決算短信からの抜粋です。一見すると、売上高は前年同期比16.8%増、営業利益は48.5%増と大幅に増加しており、好決算に見えます。

ただ、この決算を発表した翌日の1月15日に松屋の株価は前日比12%近い急落となりました。なぜ好決算なのに株価は急落したのでしょうか?上述したように、企業は業績を累計値で発表します。松屋の一見好決算に見える累計の業績も3ヶ月ごとに分解して分析していくと、違った姿が浮かんできます。

20160426_stocks-focus_1

以下のグラフは、松屋の営業利益を累計値ではなく3ヶ月ごとに分解し、前年同期比の増益率を示したものです。このグラフを見ると、2014年度の第3四半期から2015年度の第2四半期まで4四半期連続で前年同期比で大幅な増益を確保していたにも関わらず、2015年度の第3四半期に営業減益に転じたことがわかります。

なお、前年同期と比べるのは企業ごとの季節性をできる限り排除するためです。例えば松屋の場合、特段のイベントのない9-11月期とクリスマスやお正月のある12-2月期を比較してしまうと、季節性の違いが大きくあまり参考になりません。原則として前年同期と比較するようにしましょう。

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松屋といえば昨年大変話題になった外国人観光客の「爆買い」の象徴のような銘柄で、外国人観光客の大幅な増加が業績に追い風となっていました。ところが人民元安等の影響で中国人観光客の高額品等の購入が鈍化し「爆買いブーム」はしぼんで松屋の業績がピークアウトしたことがはっきりしてしまいました。だからこそ松屋の株価は発表翌日に大幅安となったと考えられます。

なお、松屋が2015年度第3四半期の決算発表を行った2016年1月14日の日経平均は17,240円で、昨日4月25日の終値は17,439円と日経平均は期間中に1%強上昇しています。それに対し、松屋の株価は1月14日の1,086円に対し4月25日は894円といまだに2割近く下落しています。松屋は4月14日に発表した第4四半期の営業利益も前年同期比減益で、業績の低迷から抜け出せていないことが明らかとなりました。

このように、決算短信を累計値でのみチェックするのと3ヶ月ごとに分解して分析するのでは、全く違う企業業績のトレンドが浮かび上がってくることがあります。ご自身の保有銘柄や注目されている企業の決算短信が発表されたら、ぜひ3ヶ月ごとのトレンドをチェックしてみて頂きたいと思います。最後に、累計値しか発表されない決算短信から、3ヶ月ごとの数字を抽出する方法をご紹介します。

累計値から3ヶ月の数字を抽出する方法

その方法とは、発表された累計値から1つ前の四半期決算の累計値を引き算していくという方法です。具体例を使って見ていくと以下のとおりです。

20160426_stocks-focus_3

上記は架空の例を使ったものですが、左から2列目が営業利益の各四半期ごとの累計値(企業が発表する数字)です。第1四半期は累計値がそのまま3ヶ月の営業利益となりますが、その後は1つ前の四半期までの累計値を引き算していくと、3ヶ月の数字が出てきます。

本当はこのような手間をかけずとも企業が3ヶ月の数字を直接発表してくれれば良いのですが、現状の決算短信はこのような仕組みとなっているので仕方ありません(企業の中には決算説明資料等で3ヶ月の数字を開示している企業もあります)。

ぜひ面倒でもこの方法を使って、3ヶ月ごとの数値を取得して企業業績のトレンドを投資判断にご活用いただければと思います。なお、このレポートの内容は こちらのセミナー でもご紹介しておりますのでぜひそちらもご参照ください。

益嶋 裕
マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部

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