伝説的な米投資会社クォンタム・ファンドを著名投資家ジョージ・ソロス氏と1973年に共同設立して、10年の間に3365%のリターンを叩き出したジム・ロジャーズ氏。のちに「商品投資の天才」と呼ばれ、現在は米ロジャーズ・ホールディングス会長を務めている。

多くのエコノミストが「世界経済が落ち込む中、唯一健全で底堅い」とする米経済だが、ロジャーズ氏は1年以内にリセッション(景気後退)に陥ると公言し、手厳しい。その一方で、度重なる中国経済の変調の兆しにもかかわらず、ロジャーズ氏の「中国推し」はまったくブレない。

その揺るぎない中国経済への強気の信頼感は、どこから生まれるのか。過去のロジャーズ氏の発言や投資行動を振り返り、探ってみよう。

米名門エール大学の歴史学部を1964年に卒業したロジャーズ氏は、歴史家らしく景気循環説を信奉している。3月下旬の英紙『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューで同氏は、「歴史の流れの中で、金融市場では景気循環があり、上がり調子の時もあった。

だが今、直近の成長の時期は終わりに近づいている。前回の景気後退局面の終わりからは、もう8年も経っている。日本はすでにリセッション入りしており、欧州の一部でも景気後退が見られる。中国は成長を続けるものの、問題が山積する。次の世界規模の景気後退が世界を襲うとき、悪影響を受けない人は少なく、中国を含むすべての国が苦しむことになろう」と予想。

「中国ロング」を続けるロジャーズ氏

その一方でロジャーズ氏は、「中国経済が他の経済と違うところは、過去25年に一度も景気後退を経験していないことだ。非常に奇妙なことだ」と述べ、中国経済が他国の経済と根本的に違っているとの見解を表明。聞き手の「中国は好きか」との問いに対し、次のように答えた。

「中国株を保有しているが、一株も売っていない。適正な機会と状況に出会えれば、多分、さらに買い増すだろう」。

少しさかのぼって、今年1月の初め。ロジャーズ氏はフォックス・ビジネス・ネットワークによる年初インタビューの中で、「世界中で経済が減速している。中国もそうだ。だが昨年、中国の株式市場は世界の中で最も強かったので、今年は下げて当然だ。それでも昨年、中国市場は米国市場より強かった」と語った。

さらに、「私自身の投資については、米国株は下落に賭けるショートで、中国株は上昇に賭けるロングにしている」とも述べて、中国推しを隠そうともしなかった。この「中国ロング」の基本的な立場は、4月になっても変わっていない。なおロジャーズ氏は、自身の中国株投資の運用成績公表を控えている。

さらに遡った2015年8月に中国発の経済不安が世界中を覆った、その直後にも、ロジャーズ氏は変わらぬ中国経済への信頼を口にしている。昨年9月にヤフー・ファイナンスの取材に応じたロジャーズ氏は、「過去12か月の世界で、一番強い株式市場は中国だった。米国株式市場など比べ物にならないほど、あまりにも強かった」と、手放しの賛美をした。

その上で、「もちろん中国経済にも問題は起こるし、もちろん我々は心配すべきだ。世界中どこでも問題は起こる。だが、もしあんたが中国で汚染除去を生業にしているしているなら、あれまあ、あんたは儲かりすぎて自分のカネを数えることもできまい。なぜなら、中国には解決されなければならない問題が山ほどあるからね」と、ざっくばらんに語った。

中国の諺である「人間万事塞翁が馬(幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないのだから、安易に喜んだり悲しんだりするべきではないというたとえ)」を彷彿とさせる解説である。

2015年10月にも、「世界中のみなが問題を抱えているが、中国はその大半よりうまくやっている」とロシアの通信社スプートニクに対して語っている。

哲学的な投資と、抜け目のなさが同居

このように、ロジャーズ氏は中国を、非中国の景気循環サイクルからはある程度独立した存在で、しかもその巨大さのゆえに問題を大きなチャンスに変える機会があふれた経済だと見ている。中国経済の底堅さを、常に米国経済と比べて論じ、中国推しを説く姿勢は一貫しており、強気がまったくブレない。

歴史家であるロジャーズ氏の持説は、「19世紀は英国の時代、20世紀は米国の時代、21世紀は中国の時代」である。歴史的な大局観をもって投資をしているのだ。

だが、そこはロジャーズ氏。哲学的な投資と、抜け目のなさが同居している。2007年1月に上海総合指数が2800まで上昇すると、「中国株はバブルだ」と主張し、その後4000まで上げると、「バブルだ」との前言を翻した。さらに同指数が6000近くまで上げると中国株に楽観的な考えを表明しておきながら、実際は2007年7月に保有株が4倍になった時点でちゃっかりと売り抜けた。

そして2007年10月に中国株のバブルが崩壊すると、「中国株に長期投資する」と表明し、売り抜け後の原資で押し目買いを始めるなど、舌を巻くしたたかな投資戦略を展開した。

歴史家の哲学的な大局観と相場師の野獣的な直観。ロジャーズ氏にとって巨大な中国は絶好の狩場であり、それがブレない「中国推し」の理由である。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)