国内債券マーケットの代表的なベンチマークであるNOMURA-BPI総合(平均残存年数約9.1年)の最終利回りは、3月からマイナスを付けるようになった。これは、国内債券マーケット全体の平均金利がマイナスになり、大部分の国内債券はマイナス金利になったことを意味する。マイナス金利の影響は国内債券マーケットに広く浸透し、その影響は日増しに大きくなってきている。
国内債券は長期の運用が必要な投資家(保険・年金基金など)にとって、安定資産としてポートフォリオの中核を占めてきた。しかし、マイナス金利の債券を償還まで保有すると、マイナス利回りが確定する。リスクは抑制したいが、リターンがマイナスになるのであれば投資する意味がない。長期の投資家にとってマイナス金利のマーケットに参加することは難しくなっている。マイナス金利のマーケットに参加できる投資家は限られている。
マイナス金利で購入しても更に低い金利で日銀が購入してくれることを期待して短期売買を繰り返す投資家、担保として必要最低限の国債を確保しておきたい金融機関、マイナスで推移している欧州金利水準との比較や通貨スワップなどを利用して一定の利鞘を稼ぐことができる海外の投資家、などが参加していると考えられるが、参加者が少なくなれば、ボラティリティーは高くなりやすい。マイナス金利政策導入後のボラティリティー(図表1)は、急激に上昇している。
マイナス金利政策導入後のボラティリティーには一定の特徴がある。主な年限別に見ると、ボラティリティーのピークが、大きく2つに分かれる。
最初のピークは10年以下のゾーンで、マイナス金利政策導入後間もない2月上旬にピークが来る。2番目のピークは20年以上のゾーンで、最初のピークより1ヶ月程度遅れた3月上旬になる。また、ピーク時のボラティリティーの高さも10年以下のゾーンはほぼ同水準であるが、20年以上のゾーンはそれより高く、その中でもより長い年限のボラティリティーが高いピークを付けている。
更に、ボラティリティーがピークアウトして落ち着く水準であるが、10年以下のゾーンでは、短期(1年)は2月末ごろ、長期(10年)は3月中旬となり、ピーク時期が同じでもより長期の方が落ち着くまでに時間がかかっている。
そして、ピークアウト後のボラティリティー水準は全ての年限でマイナス金利導入前よりも高くなっており、マイナス金利により参加者が限られ、ボラティリティーが高くなりやすい状況が続いていることが分かる。
20年以上のボラティリティーもピークを過ぎているが、まだ落ち着いた水準には達していない。そして、ここでもやはり年限のより長い金利の方がボラティリティーは高く、安定するまでにより時間がかかると考えられる。
金利の推移(図表2)を見ていくと、短期(1年)金利は2月上旬に直近とほぼ同じ金利水準を付け、その後は安定して推移している。長期(10年)金利は2月下旬に直近とほぼ同じ金利水準を付け、その後は安定して推移している。
いずれもボラティリティーが安定する約20営業日前のことで、ボラティリティー計測期間と一致する。つまり、ボラティリティー安定後は金利水準も安定していることになる。
超長期(20年)金利は直近と同じ金利水準がしばらく続いており、安定しつつあるようにも見えるが、ボラティリティーの水準がマイナス金利政策導入前の2.6倍と、短期(1.4倍)、長期(1.7倍)を大幅に上回っており、まだ安定した状態になっているとは言えないだろう。
同様に、超長期(30年)のボラティリティー水準はマイナス金利政策導入前の3.9倍、超長期(40年)は4.7倍と更に高くなっていて、安定するにはもうしばらく時間がかかりそうである。超長期ゾーンは今後も金利水準が変化する可能性が高い。
10年以下はマイナス金利になっており、20年以上はプラス金利のため、ボラティリティーのみで金利水準の落ち着きどころを判断することはできないが、一つの指標として見ることは可能ではないだろうか。
今後、追加緩和によりマイナス金利幅が拡大されれば、イールドカーブはまた次の段階へ変化する。その場合はマイナス金利になる債券が更に増加し、参加者は更に少なくなると考えられる。そのため、ボラティリティーは今後もより注意深く見ていかなければならないだろう。
千田英明(ちだ ひであき)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
チーフ債券ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任
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