相続増税は納税者にとっては頭の痛い話であるが、関連業界には「相続増税特需」を生み出している。相続対策をうたう金融商品の販売増加はもちろんのこと、節税を目的としたマンション販売、アパート建設も増加している。さらに「毒を食らわば皿まで」とばかり、銀行では「相続定期預金プラン」まで登場した。相続した預金を定期預金に預ければ、金利が上乗せされるというものだ。相続定期預金は本当にお得なのだろうか。

特別な金利が設定される「相続定期預金」

銀行によって適用される金利や期間は異なるが、相続定期預金には特別な金利が設定される。定期預金なので元本割れのリスクもない。 前回取り上げた「投資信託セット定期」 では高い金利と引き換えに投資信託を購入する必要があるが、相続定期ならそういったリスクとは無縁だ。結論を言うと相続定期預金を利用しない手はない。あなたが預金を相続したならば、利用すべきである。

厄介なことといえば、相続で受け取った預金であることを証明するのに手間がかかることだ。相続手続きを行った銀行に預け入れる場合は特段の手間は不要だが、他行へ預け入れるとなると少々面倒である。

まずは預金者が相続人かどうかを証明する必要がある。そのためには戸籍謄本の写し、遺言書、遺産分割協議書が必要だ。さらに金融機関での相続手続き完了時期が確認できる書類が必要であり、被相続人名義の解約済通帳や計算書、金融機関に提出した依頼書の写しなどで確認することになる。

預入れ原資を相続により引き継いだことが確認できる書類も必要だ。相続手続き完了後1年以内というタイムリミットがあることにも注意しなければならない。

これだけの書類を準備しなければならないとなると、身構えてしまう人も多いだろう。だが、そもそも預金を相続する際にこれらの書類を銀行に提出しているはずである。その控えを再度銀行に渡せば良いだけなので、実際にはさほど苦労はないはずだ。デメリットと言えるほどのものでは無いだろう。

銀行にはより切迫した事情がある

「銀行の狙いは定期預金の満期後に投信や保険をセールスすることだ」。勘の良い方ならお気づきだろう。その通り、あわよくば金融商品の販売につなげたいという思惑が銀行にはある。したがって、定期預金の満期後のセールスに気をつけなければならない。

しかし、銀行にはより切迫した事情があるのだ。

1億円の預金を保有している預金者が亡くなったとしよう。1億円の預金は当然相続人が相続することになる。法定相続分通りに遺産分割を行えば、2分の1は配偶者、残り2分の1は子供が相続することになる。ほとんどの場合、配偶者は亡くなった預金者と同居しているだろうから、同じ銀行の同じ支店に口座を持っている可能性が高い。

しかし、子供の場合は必ずしもそうではない。むしろ、別居のケースが多く、子供が相続する財産は別の銀行へと振り込まれることが大半だ。つまり、銀行にとって相続は預金が他行へ流出する可能性が最も高いイベントでもある。1億円の預金のうち同じ銀行の同じ支店に残る預金は、せいぜい5000万円。最悪の場合は1億円がごっそり他行へ移ってしまう可能性もある。

相続財産は預金だけとは限らない。もし、亡くなった預金者が投資信託や生命保険に加入していたらどうなるだろう。投資信託はすべて解約され、現金化してそれぞれの相続人が相続することになることが多い。当然ながら銀行はこれまで信託財産のなかから受け取っていた信託報酬を受け取ることが出来なくなる。

生命保険は被保険者の死亡により、受取人に現金が支払われる。遠方に住む子供が保険金を受け取れば、もはや再運用の提案すらおぼつかない。できる限り相続預金を他行へ流出させることなく目の届く範囲内に置いておきたい。それが銀行の本音だ。

銀行預金が相続税の支払いに充てられる可能性も十分にある。相続財産の多くが不動産や有価証券のケースでは、とりあえず銀行預金で相続税を支払ってしまうというのは誰しも考えることだ。相続税の支払いには期限がある。相続発生から10カ月以内に相続税を納付しなければならないのだ。その間に不動産を売却し現金化するというのは簡単にできることではない。有価証券の場合には含み損を抱えたままで売却を決断することは難しい。とりあえず、銀行預金で相続税を支払ってしまうという決断は極めて合理的である。こうして多くの銀行預金が国へと納められることになるのだ。

毒を食らわば皿まで

相続増税は銀行をはじめ、金融業界や建設業界に特需をもたらしたことは事実だ。その多くは「来たるべき相続に備えて準備をしておきましょう」というものだ。

しかし、もはや銀行の狙いはそれだけにとどまらない。相続、贈与、大きなお金が動くとあらば必ず銀行が出しゃばる。「遺言を書いておきましょう」「遺される方のために遺言信託はいかがですか」と、セールスに余念がない。しかし、本当に遺言や遺言信託が必要な人は一体どれだけいるのだろう。

私はファイナンシャルプランナー(FP)が揃いも揃って同じような問題提起を行い、同じような提案をすることを以前に批判した。彼らは問題の本質が分かっていないのではないかと。それは銀行員にも言えることだ。

「今は相続が流行りだ」となれば何もかも相続に結びつけようとする。日銀の金融緩和政策のおかげで収益を圧迫された銀行は、なりふり構わず手数料が得られるフィービジネスに舵を切っている。将来を見越して成長産業に投資するよりも、今日の日銭を稼ぐことで精一杯だ。銀行のそんな姿勢は「毒を食らわば皿まで」と、いわんばかりに私には見えるのだ。

投信セット定期に相続定期、銀行が次々と出してくる特別金利の定期預金。はっきり言ってお得だ。利用しない手はない。損をすることなど何も無いのだから。しかし、銀行員は「毒を食らわば皿まで」とばかりにあなたから手数料を得る機会を狙っていることを忘れてはならない。(或る銀行員)

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