(本記事は、遠畑雅氏の著書『仕組み化であなたの物件の稼働力と収益力を最大化』サンライズパブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
実は不動産投資で失敗している人は多い
不動産投資は、アパートやマンションといった投資物件を購入するタイミングにより、勝敗の9割が確定すると言われるほど、物件購入前の準備が重要です。ここで言う準備とは、不動産投資の学習と、購入する投資物件の徹底的な事前リサーチを指します。
これまで多くの不動産投資家の方々とお会いしてきましたが、不動産投資で失敗する原因で最も多いのは、「不動産投資家自身の勉強不足」と「購入する投資物件のリサーチ不足」「収支シミュレーション不足」であると断言できます。
不動産投資は多額の借入を起こし、何十年という時間をかけて返済をするケースもあります。勉強もせずに何千万円、何億円の融資を受けるのは、無免許で自動車を運転する以上に危険な行為です。
また経済情勢や人口動態といった社会変化、人びとのライフスタイル、金融の基礎知識など不動産オーナーに必要とされる知識は多岐にわたり、日々学習する習慣を身につける必要があります。
「不動産」は文字どおり、動かすことができません。現地のリサーチもせず立地でつまずいたら失敗確定です。物件がある現地も訪れずに購入する人がいるそうですが、物件の近くに嫌悪施設があったり、近所に騒音を出す人が住んでいたり、大雨が降ると冠水するエリアだったり、現地に行ってみないとわからないことは多々あります。
また、不動産投資はあくまでも「投資」ですので、シミュレーションは最も重要です。シミュレーションとは未来予測であり、楽観的なものと悲観的なもの、その中間の3つが最低でも必要となります。不動産投資の勉強やシミュレーションが不足していると、コスト、金利、物件価格が割高となり収益を圧迫しかねません。
私はこれを3高(高学歴・高身長・高収入)に倣って、収益物件の3高(高コスト、高金利、高価格)と呼んでいます。これら3つは全て、もしくは一部でも高いと収益を生み出せない問題物件となってしまうため、注意が必要です。
学習つまり学びは、投資でも資格取得でも、何か事を成す上で共通して重要な要素です。学びに終わりはなく、継続する必要もあります。
不動産投資で失敗してしまう多くの投資家は学習をせずに、さらに面倒だからと自分で物件を探索することも省略して、不動産業者に勧められるがまま、いきなり物件を購入してしまいます。金融機関からの融資が出るからと問題物件を掴んでしまうと、将来的に売却しにくくなって出口戦略が描けずにハイリスク・ローリターン(場合によってはマイナスリターン)状態に陥ってしまうのです。
一般的に不動産投資は、ミドルリスク・ミドルリターンと言われていますが、運営管理を徹底して行うことで、ミドルリスク・ハイリターン、さらにはローリスク・ハイリターンにすることも可能です。
前著でもお伝えしたとおり、不動産投資には順番があります。不動産投資ライフサイクルは投資学習に始まり、物件売却まで多岐にわたります。各サイクルをきちんと回すことで、物件の購入から出口戦略までを把握することが可能となり、最終的に収益力の最大化が実現できるのです。
物件購入前に不動産投資についてきちんと学んでいれば、問題物件を掴んでしまったり、不利な融資条件で購入するような失敗を回避することができます。
特に、日銀による異次元金融政策を受けて各金融機関が貸出を広げた2015年以降、不動産投資ブームが過熱し始めた頃に、不動産投資に取り組んだ多くの人が失敗しているのは、物件購入を急ぐあまりに学びやリサーチ、シミュレーションを怠ってしまった結果です。
現在、銀行は融資先である企業の決算書に基づき、10~12段階に分けて信用度を格付けするよう金融庁に義務付けられています。そして、この格付けに基づいて、融資先を「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」という6つの債務者区分に分けるのです。
2018年のスルガショックは、不動産業界全体に大きな衝撃を与えました。スルガ銀行の第三者委員会が実施した融資の実態調査の結果、シェアハウス向け融資の99%が承認されるなど、1兆円を超える不適切融資を行っていたことが判明したのです。
2019年2月8日に日本銀行より発表された「貸出先別貸出金」によると、この一件以降、国内136銀行による不動産事業(個人事業)向けの貸出額は、2017年に比べて16.4%も減少したと言います。
その後、各金融機関のアパートローンをはじめとする不動産融資は一斉に引き締めの傾向が強まりました。
図1−2の「1棟収益物件のローン債権区分」を見ていただくと、73%が「要注意先」、さらに「要管理先」などが10%であることがわかります。つまり、8割超が正常な融資先ではなかったということです。スルガ銀行は本当に審査をしていたのかと疑いたくなります。
一方で、「要注意先」「要管理先」の不動産オーナーの物件の収支はほぼ赤字で、返済に不足する分を給料などから補填していることと推測できます。せっかく資産形成のために不動産投資を始めたのに、逆にキャッシュアウトしてしまう状況はなんとも残念です。
これは、不動産投資ブームが過熱し始めた2015年以降、特に不動産投資で失敗している人が多いと指摘した証拠のひとつでもあります。そして、2020年春頃からの新型コロナウイルス感染症が、不動産業界にさらなる打撃を与えています。
本書を執筆している2020年7月時点では、新型コロナウイルス感染症による非常事態宣言は解除されてはいるものの、長引く営業停止と自粛、消費の落ち込みによる事業者の売上減少は深刻です。
帝国データバンクの調べによると、新型コロナウイルス関連の倒産は、全国で285件(2020年6月25日16時現在)に上ると言い、法的整理200件(破産177件、民事再生法23件)、事業停止が85件で、実に41都道府県で発生しています。
業種別に見ると、飲食店、ホテル・旅館、アパレル・雑貨小売店が上位に並び、個人や中小事業者が手掛けることの多い業種に倒産が目立ちます。仮に倒産は免れても、業績悪化により資産整理に迫られ、保有する不動産を売却する経営者も少なくありません。好況時に資産運用を目的に収益物件を買うことは珍しくありませんが、不況になるとそれを売って、損失補填などに充てるわけです。
今後、新型コロナウイルス感染症でダメージを負った法人や個人の売り物件は、ますます市場に増えていくことが予想されます。実際、売りに出ている地方物件の価格は、数年前と比べてだいぶ下がってきました。しかしながら、多くの金融機関は新型コロナウイルス感染症関連の融資の緊急対応に追われ、収益物件の購入などの融資に割く時間はなく、不動産投資家にとっては資金調達が困難な状況です。
その結果、不動産市場では、できるだけ高く売りたい売り手と、できるだけ安く買いたい買い手が拮抗しますが、先に音をあげるのは売り手となるでしょう。早期にキャッシュを確保したい、相続税納付のために物件を売却したい、といった売り急ぐ事情があると、売却価格の引き下げを余儀なくされるからです。
よって、買い手は焦って高値に飛びつくのではなく、本当に欲しい物件をじっくりと探し、価格的に折り合わない場合は価格の値下げ交渉に臨めば、優良物件が割安で手に入る可能性も十分に考えられます。
また、不動産を管理・運用してきた賃貸業の経験や実績を金融機関にアピールできると、融資を受けるのには大きくプラスとなります。不動産オーナーとして黒字の決算書と現金を積み上げておけば、金融機関からの評価は間違いなく高くなるのです。
2018年のスルガショックと2020年のコロナショックにより、不動産投資を取り巻く環境に大きな変化が起きていることは言うまでもありません。しかし、一見ピンチに思える大きな環境変化には、実はチャンスも存在しています。
2020年は「融資冬の時代」に突入しており、多くの投資家にとって新規物件の購入が難しい情勢ですが、所有している物件の稼働と収益の最大化に注力することで、黒字の決算書と現金を積み上げ、将来の物件購入に向けて万全の準備を整える時期とも言えるでしょう。
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