(本記事は、遠畑雅氏の著書『仕組み化であなたの物件の稼働力と収益力を最大化』サンライズパブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
決算書は経営者の成績通知書
会社の決算書や個人の確定申告書対策、決算書の作成はまさに第2領域の時間の使い方であり、税理士との共同作業でもあります。決算書の良し悪しで、今後の融資が大きく左右されると言っても過言ではありません。
不動産オーナーにとっては事業の将来に関わる非常に重要な仕事ですが、決算期直前に領収書の整理に追われて、適当な内容の決算書をつくってしまう人も多く、良い決算書の作成に十分な時間と労力を投下している不動産オーナーは意外と少ないものです。
収益用不動産は買って終わりではなく、買ってからがスタートです。長ければ何十年と続く物件の保有期間において、満室経営を続けることは出口戦略の選択肢を広げます。そして、良い決算書とは満室経営による結果です。
半年程度の期間の物件のレントロールを見れば、その物件が満室経営を続けられる優良物件か否かが一目でわかります。
物件の空室が少ないことが一番ですが、退去は入居者の都合のため、ゼロにするのは簡単ではありません。退去しても早期に入居付けができる、入居者の入れ替えが発生しても家賃の減額を抑えられるような経営努力が必要になります。
コストを抑えた経営も、収益性向上を追求した姿勢のひとつでしょう。
そして最終的に、物件のオーナーである個人もしくは法人が黒字決算を重ねて、自己資本比率を高め、預金残高を積み上げることが重要です。
良い決算書と潤沢な現金によって「できる経営者」と認められれば、次の融資案件への取り組みが容易になります。決算書は経営者であるあなたの成績通知書であり、金融機関から優良顧客として認識してもらうツールでもあるのです。
では金融機関から優良顧客として認識してもらうための、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)のそれぞれのポイントについて解説していきましょう。
貸借対照表(B/S)には、決算日における財政状態(資産、負債の内容)が表示されています。たとえ経営がうまくいっているように見えても、貸借対照表の純資産の合計がマイナスであれば、実はその会社は他人から借りたお金で何とか会社を継続している状態に過ぎないということです。
•純資産がプラスであること
金融機関が最初に見るのは純資産の合計です。総資産に対して純資産が20%あることが理想とされていますが、純資産がマイナスの場合は「債務超過先」であり、融資の対象から外されてしまいます。
•金融資産を多く持つ
多くの現金もしくは金融資産があることは、資金繰りを見る上で重要です。決算書上の数字の確認だけでなく、最近はスルガショックの影響もあってか、通帳現物提示や過去の入出金履歴までを求める金融機関もあります。
•社長と会社の間の不明確な「仮払金」「貸付金」などは評価が下がる
金融機関は、中身が不明確な項目は資産と見なしません。社長個人の財務状況が、会社の財務状況と一体だと見なされているため、役員貸付金は「会社のお金を社長個人か関連会社に回したお金」とされ、評価が下がるため注意が必要です。
•「役員借入金」は「長期借入金」にせず、銀行借入金と分けて計上する
役員借入金を負債ではなく、自己資本と見なす銀行もあります。返済する予定がない場合、自己資本として計上すれば評価は上がります。
•不動産の評価額は、購入した金額ではなく、各金融機関の評価基準に沿って評価額に引き直される
評価基準は、積算評価と収益還元評価、ないしは両方のミックスであることが多く、引き直し後の評価額はなかなか把握することができませんが、入居状況(家賃収入)から算出する銀行もあるため、常に満室経営を心掛ける必要があります。
損益計算書(P/L)は、その名のとおり会社の損益計算を行った計算書のことで、損益計算書によって会社の業績の良し悪しや、どのような状態かを一目で理解することができます。
•本業の利益=営業利益をプラスにする
本業の利益が基本的な返済力と見なされます。
•家賃収入の推移
経営状態が健全であれば、家賃収入が毎年大幅に変動することは考えにくいため、家賃収入が安定傾向であることをアピールすることが重要です。仮に減少傾向にある場合は、原因と対策を説明して、今後の改善に向けた設計を伝えましょう。
•役員報酬の報酬額はチェックされる
役員報酬が極端な金額の場合は注意が必要です。役員報酬が極端に低いと「黒字にするため敢えて低く抑えているのでは」と見られる可能性があります。逆に高すぎる場合、そのお金がどこに流れているかを疑われます。個人資産・借入の状況を常に把握しようとするのは、経営者個人の財務状況が会社のそれと事実上一体だと見なされているからです。
•接待交際費
平成26年の税制改正以降、交際費などの損金不算入制度が緩和され、節税対策に有利な仕組みとなりました。しかし、接待交際費が多い会社を金融機関が高く評価することはありませんので、節度ある使い方を心掛けましょう。
以上が、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)のそれぞれのポイントになります。
不動産賃貸業は比較的安定的な事業と見られますが、それは満室経営を継続することが大前提です。また、黒字決算を重ねて自己資本比率を高め、預金残高とともに信用残高が積み上がっていることが重要です。
そして最後に重要なのが、納税です。経費をできるだけ多めに計上して、赤字の状態に保つことで納税を免れようとする不動産オーナーもいるようですが、損益計算書(P/L)の説明の中でもお伝えしたとおり、不動産賃貸業という事業でどのくらい儲かっているのかを示す必要があります。その際、税引き前の当期純利益がどのくらいで、いくら納税しているのかを金融機関はチェックします。
事業の大きさの割に納税額が過小だと過度な節税をしていると疑われてしまうので、適正な納税額について、税理士とよく確認してから申告することをおすすめします。
また、年に1回の決算申告は、金融機関担当者に経営状態をアピールする絶好の機会です。過去1年間の決算報告とともに、将来の事業のビジョンなども伝えて、長期的にお付き合いできる関係を構築していきましょう。
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