(本記事は、遠畑雅氏の著書『仕組み化であなたの物件の稼働力と収益力を最大化』サンライズパブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
“なんでも大家さん”と“仕組み化オーナー”
不動産投資を始めてから、地域の大家の会や不動産オーナー向け検定組織などに所属したり、また不動産に関わる各種相談を承ったりと、数多くの不動産オーナーと接してきました。
不動産オーナーにも色々な方がいて、物件規模の大小、物件の種類、投資対象エリア、地主の方、本業はサラリーマンの方など、属性や投資スタイルは一人ひとり異なります。
そして、管理運営に対するスタンスは、自分自身で何もかもこなそうとする“何でもかんでも自分でやる大家さん(以下なんでも大家さん)”と、業務をプロに任せるシステムをつくり上げる“仕組み化オーナー”、そしてその中間の3タイプに分類できます。
なんでも大家さんは、DIYが好きで原状回復やリフォームなどを自らこなし、コストダウンのために物件を自主管理してしまい、四六時中電話応対に追われる上、毎週末に所有物件を巡回するといったタイプです。こうしたオーナーの多くは自主管理派ですが、多少のコストダウンは達成できても、明らかに自由な時間が犠牲になっています。
例えば、アパートの共用部の清掃は隔週でシルバー人材に依頼すれば、毎月6000円ほどで済みます。時給に換算すると1000円程度と言ったところでしょうか。なんでも大家さんが片道1時間かけて現地まで足を運び、作業時間が1時間だと計算すると合計3時間を費やすことになります。これを月2回やれば6時間です。
人に任せて済ませられる作業を自らで行ってしまうと、確かに達成感はあるかも知れませんが、自分自身に時給1000円のセルフイメージが染み付いてしまいます。作業のほとんどは時間の切り売りのような仕事なので、レバレッジがかからず事業成長がすぐに限界を迎えてしまうでしょう。
このような“なんでも大家さん”は、自らがプレイヤーの個人事業主であり、図2−1のロバート・キヨサキによるキャッシュフロー・クワドラントの左側に位置する考え方を持っています。
一方で、社員を雇うなどアウトソーシングを上手に活用して、極力自分の手を動かさないオーナーもいます。こうしたオーナーは、不動産業者や銀行への対応も社員に任せ、自らの仕事は売買契約書に押印して各種決裁をするだけ、と割り切っています。つまり、投資家でありながらビジネスオーナーでもある、キャッシュフロー・クワドラントの右側に位置する考え方です。
こうした考えは、あらゆることにレバレッジがかかっているため、経営資源をうまくマネジメントできれば事業成長が加速します。キャッシュフロー・クワドラントの右側に当たる人は「時給がいくらか」という次元ではなく、事業全体の成長を志向しているため、左側の人とは視点が異なるのです。
なんでも大家さんと仕組み化オーナーの根本的な違いは、自分の時間をどのように使うか、将来の事業成長をどう考えているかにあると言えるでしょう。
私自身も最初はなんでも大家さんでした。しかし、その後紆余曲折がありながら、仕組み化オーナーへ転換していきました。
不動産投資を始めた頃は、DIYこそしないものの、自ら率先して現場へ行き、設備や建材を手配して施工業者に渡すなど、施主支給をしてコストを切り詰め、さらに現場の作業を手伝ったこともありました。
特に、半空きなどの空室の多い物件を購入するようになってからは、空室対策の手段としてホームステージングを行うために、IKEAやニトリに毎週のように通い、照明や家具を買っては現場で取り付けたり、現場で内装の写真を撮ってはオリジナルのマイソクを作成し、物件周辺の不動産会社をくまなく巡って募集促進をお願いするなど、貴重な休日を多くの作業に費やしていました。
当時は外資系企業でサラリーマンをしていて、平日もそれなりに激務で、日米の時差のため早朝から深夜まで仕事をしていましたが、そんな激務の合間の空き時間にネットなどで収益物件を探したり、再生物件を購入したり、我ながら10年以上もよくやってきたなと思います。
体力と時間は消耗しましたが、なんでも大家さん兼サラリーマン大家さんを続けたことで、得るものが大きかったことも事実です。
リフォームの現場でどんな作業が行われているか、建材や設備にどんなものがあるのかを理解できただけでなく、空室を埋めるためには不動産会社とどのようなコミュニケーションを取れば良いかなど、実体験が蓄積できたことは現在に大いに役立っています。
2017年にサラリーマンを卒業して、自分の時間を拘束される激務から解放された私は、24時間365日をどのように過ごすかを自分で決められる状態になり、時間と真剣に向き合うことになりました。やっと掴んだ自由な時間を雑務に追われることなく楽しむために、時間管理のセミナーに参加したり、大家の会に入会して専業大家とのネットワークづくりも行いました。
その時出会った方で、1000室近い規模の物件を保有する不動産オーナーがいたのですが、さぞかし物件の管理運営が大変かと思い伺ってみると、社員を雇ってアウトソーシングを徹底しているため、ご自身は物件の購入時だけ動いて他の仕事はせず、時間に余裕があるとのことでした。
そこで、私は早速この大規模オーナーを真似て、物件管理に関わる収支計算や管理会社との連絡を徹底して仕組み化しようと思い立ち、契約社員のスタッフを雇いました。不動産賃貸業に関わる作業をレクチャーしてお任せしたものの、トラブルや管理会社とのやり取りが毎日発生するわけでもなく、当時の私の事業規模と作業の発生頻度では時間を持て余してしまう状況が続き、結局1年経たずに辞めていただきました。
この失敗をきっかけに、自社だけでスタッフを雇用するのではなく、自社の業務に加えてお客様の業務もまとめて行えば、リソースの無駄使いを防げるのではないかと考え、現在の活動を始めるに至ります。
また、スタッフのキャリアプランやワークスタイルを理解するために、スタッフときちんとコミュニケーションをとることの重要性にも気が付くことができました。事業を進める上で人材は不可欠ですが、現代においては雇用に関するコンプライアンスにも細心の注意を払う必要があり、人材の扱いを誤るとかえって大変なことになります。
なんでも大家さん兼サラリーマン大家さん、そして仕組み化オーナーの両方の経験から、どちらのスタイルも理解できますが、もし事業を拡大したい、自分の時間を十分に確保したいというのであれば、最初から仕組み化オーナーを目指すべきだと思うのです。
どのスタンスを選ぶかによって、小規模大家さんで終わるか、大規模で洗練された不動産投資家になるか、天下の分かれ道になると言っても過言ではありません。
不動産オーナーの物件管理運営の仕事(物件の売買は除く)は、入居の募集活動から決算、納税まで不動産オーナーの仕事は多岐にわたります。一見、やることがたくさんあって大変そうな印象を受けますが、ほとんどの項目は、管理会社やリフォーム会社などにアウトソースできます。
一方で、不動産オーナーにしかできないこと、不動産オーナーがやるべき仕事はほんのわずかです。収支状況の分析、決算書作成、納税・税務調査の3点ほどでしょう。これらは全て経営管理のための数字に関する業務で、収支分析はツールがあれば不動産オーナー自身の作業は不要です。また決算書も税理士が作成してくれます。
不動産オーナーがすべき最も重要な仕事のひとつは、経営者としての成績通知書である決算書をきちんとした内容につくり上げることです。その他の業務は管理会社をはじめ然るべき人に委託して、雑務はスタッフにお願いするなど、不動産オーナーはできるだけ利益に直結する仕事に集中しましょう。
業務をアウトソースして仕組み化できれば、より創造的な仕事や未来への準備に集中できるだけでなく、心の安定とモチベーションも維持できます。ただし、業務を仕組み化する上では注意点もあります。それは、タスクを極力マニュアル化して内容を明確にすることです。
私自身、サラリーマン時代に上司からの指示が曖昧で大変困惑した経験があります。「やりたいようにやれ」とか「お客様が喜ぶことが正しい仕事だ」など抽象的なことばかりを言って、具体的な指示や方向性を示さないと、部下はついていくことができません。
人はイメージできることしか実現できません。反対に、報酬だけでなく自分の貢献度が高まれば、組織へのロイヤリティや達成感が上がります。そのため、数値的なIQ面と感情的なEQ面の両方でモチベーションを上げるようなマネジメントスタイルを心掛けるべきでしょう。
例えば、従業員に到達してほしいレベルを伝え、基準を設定します。あとは本人に任せ、それを毎日の業務日報で確認し、到達レベルまでの道が逸れていると感じたら、新たに指示を出して修正します。
私が代表を務める株式会社922では、これまでの経験を活かし、スタッフを自分たちの物件専用に雇用するのではなく、煩わしい事務作業や集計作業などで同様の悩みを持つお客様と共有しています。これは、Amazonが本の販売用に用意していたクラウド環境のサーバーリソースの余剰分を、企業にクラウドサービスとして貸し出すことと似ています。
仕組み化を実践した結果、いまでは1年間の1/3程度を出張や旅行に費やしています。これは時間やお金の自由を得たことを自慢しているのではなく、私が日本にいなくても、会社は問題なく業務をこなし、物件管理が通常どおり行われるように仕組み化されていることの証です。
私の代わりにスタッフが動いてくれて、かつ管理会社とのコミュニケーションのルールが徹底しているため、無駄な対応はほとんど発生しません。
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