16/3期、17/3期の決算発表と予想のチェックポイント
チェックポイント①:預貸利鞘の下落予想幅は楽観的でないか
銀行の貸出業務においては、小売業等の"売上単価"に当たるのが利鞘で、"売上数量"に当るのが貸出額である。経費や貸倒費用等を賄うには、数量も大事ではあるが、単価が下がらないことがより望ましい。
しかし、マイナス金利下では、利鞘は下落が既定路線である。注目すべきは、今期の下落幅がどの程度で収まると銀行が予想しているのかである。これは、計画収益の楽観度を測る上で特に重要だ。
我々の16/3期の利鞘下落幅予想は、大手・地銀の平均で8bp(0.08%)強程度と、前年度の下落幅とほぼ同等だが(図表5)、これは、国内貸出収益の5-8%の押し下げ要因となっている。
問題は17/3期である。1月以降のTibor下落幅の影響が17/3期に徐々に顕在化するので、利鞘は10bp程度下落する可能性がある。因みに、前回Tiborが急落した11/3期には銀行の利鞘は平均10bp強下落した。
今回もし同じくらい利鞘が下落したら、下落率は8~10%に上る計算になる。銀行によって、利鞘の厚い貸出を増やすなどの施策を打つので一概には言えないが、特段の施策も示されることなく利鞘が前年度程度かそれ以下しか下がらないような計画になっている場合、利益計画比未達となるリスクが高まるだろう。
チェックポイント②:貸出増加率と拡大分野~過度な集中と海外資金調達余力に注意
3月末の前年同期比の貸出増加率は全国銀行平均で2.6%程度と、ペースは緩やかである(図表6)。これに対して、17/3期に各行がどの程度の貸出拡大にコミットメントするのかを今期の計画値から読み取りたい。
17/3期は、3つの分野で拡大の余地がある。第一に不動産関連。マイナス金利の影響で、住宅ローンの需要が強い。特に目立つのは借り換えの申込みだが、地銀では、新規の申込み件数もペースが上がってきた模様である。また、住宅一件当たりの価格も上昇していることから、件数以上に貸出金額が増加する可能性もある。
企業の不動産投資意欲も高まっている。国土交通省の2月調査によれば、今後1年程度で不動産取得を拡大させたいとする企業数から減少させたいとする企業数を引いた差額はデータが見られる03年以降で最高となっている(図表7)。
但し、近年不動産貸出の活発化が目立つだけに、この分野に過度に依存していないかどうかを確認する必要があるだろう。
第二に個人向け無担保貸出である。これも貸出金利は市場金利の影響をさほど受けないため、一層活発化すると思われる(図表8)。
銀行によっては、二桁%の増加率も珍しくはないとみられる。市場規模はまだ小さいが、利鞘が3~10%程度と平均貸出金利の3~10倍もあるため利益貢献も無視できない。但し、競争も激しくなっていることから、この分野も中長期的には利鞘低下の聖域というわけではない。
三番目は海外の貸出である。前年度比円高になっていることも響くため、前年ほどの伸びは期待できないだろう(前年度は大手行で7~10%強増加の計画だった)。それでも17/3期の計画も、+6~10%程度には設定されると思われる。
但し、残高が大きくなるにつれて資金調達も厳しくなっており、将来的には外貨調達に関する規制も厳格化される。このため、貸出計画が外貨調達力に合致しているかどうかを十分チェックする必要があるだろう。