プロ野球球団が新たな投資やアイデアでファンを呼び込んでいる。プロ野球ビジネスでの主な収入源は入場料、放送権、グッズ販売だが、各球団はロイヤリティの高いファンづくりとそこからの直接収入を「強く・濃く」するモデルへ大きな転換をはかっている。

「セ・パ」過去10年の観客動員数推移

まずは、過去10年の入場料収入に直結する観客動員数をみていこう。

【セリーグ】
1996年:1220万人
2005年:1167万人(1996年に対して-5%)
2015年:1350万人(1996年に対して+10%)

【パリーグ】
1996年:890万人
2005年:825万人(1996年に対して-8%)
2015年:1070万人(1996年に対して+20%)

選手会のストライキやリーグ再編問題とそれに伴う新球団設立などの影響で、2005年は観客動員数がマイナスに転じている。2015年には増加に転じており、野球人気が復活したように見える。

しかし球団別に見てみると、その実情は異なるようだ。

【読売ジャイアンツ】
1996年:350万人
2015年:290万人(1996年に対して-18%)

【福岡ソフトバンクホークス】
1996年:220万人
2015年:250万人(1996年に対して+14%)

【北海道日本ハムファイターズ】
1996年:160万人
2015年:195万人(1996年に対して+22%)

かつて最も人気があった読売ジャイアンツは、過去十年間で観客動員数を減少させているが、福岡ソフトバンクホークスや北海道日本ハムファイターズは増加させていることが見てとれる。特に、単体でのビジネスとして成功を収めつつある球団の代表が福岡ソフトバンクホークスだ。

福岡ソフトバンクホークスは2015年に黒字転換

ソフトバンクがダイエーから買収した2004年に170億円規模だった売上高は、直近では250億円規模に拡大した。赤字続きだった利益も15年2月期には27億円と黒字転換に成功している。

かつてプロ野球チームは、オーナー企業の広告宣伝の一部と位置づけられていた。赤字体質は当たり前で、親会社によって赤字補填されるケースが大半だった。黒字なのは読売ジャイアンツだけだったとも言われおり、誰もがプロ野球が単体で儲かる事業とは見ていなかった。

2004年の球場買収がビジネスの転換点

プロ野球ビジネスのターニングポイントとなったのは間違いなく、2004年の日本ハムファイターズの北海道移転、福岡ソフトバンクホークスと東北楽天ゴールデンイーグルスの設立だった。これらの球団は新天地への移転や新球団設立でビジネスとしての基盤が非常に弱く、また親会社からの支援も期待できなかった。

そのような厳しい環境の中で最も積極的にプロ野球球団を単体でビジネスとして成立させようとしたのが、福岡ソフトバンクホークスだ。

2012年、ソフトバンク本社は福岡ドームをシンガポール政府投資公社から870億円で買収した。球団が自ら球場を保有することは大きな投資だったが、これがその後のビジネスの基盤になった。

ソフトバンクホークスが球場所有者に支払う球場使用料は年間50億円と高額で、これが球団経営にとって重荷となっていた。そこで球場使用料の低減を目的に球場を買収した。球場取得によって球場使用コストは年間30億円程度に減少した。また球場を自己保有したことで、球団・球場を一体で運営することが可能になり、多くの収入源を持つことができるようになった。

例えば球場内のディスプレイ広告は、球場を借りていれば球団の収入とはならないが、球場を保有することで球団の大きな収入源にできる。また、飲食やグッズの販売の利益も直接球団に入るようになる、さらには、施設の改修・改装が可能になったことで、マーケティング施策の自由度がぐっと増した。

入場料収入を高める工夫

球団単体で経営を成り立たせる上でもっとも重要なのは、ファン獲得とそれによる入場料収入だ。中でも年間で安定的・確実に収入が確保できる年間シートに力を入れている。

例えば、バックネット裏の席「プレミアムシート」は専用エントランス、ソファシート、駐車スペース確保などのサービスを提供している。試合や選手を最も近くで観戦できるフィールドエリアの席はキャンセル待ちという人気ぶりだ。これらの席は年間契約のため高額になるものの、熱心なファンにはたまらないだろう。

もっと気軽に席を確保したいファンのためには、6試合のリザーブ・プランも用意されている。中にはスポーツカーで採用されている高級シートメーカー「レカロ」のシートを採用していてゆったりと観戦できるプランもある。

またVIPルームも設置しており、ここでは個室で食事やドリンクが提供される。野球観戦を接待やパーティーに使えるという、新しい需要を作り出すことに成功している。

自社によるグッズ制作とプログラム

もうひとつの重要な収入源であるグッズ販売では、従来ライセンス付与型であったビジネスモデルを自社で直接企画・生産する体制に移行した。コンシューマービジネス本部MD企画部を設置し、グッズに関する企画・デザイン・生産・在庫管理から営業までも自社で手がける体制になっている。 年間を通して企画・販売されるグッズは1500点にも及ぶそうだ。

また「ホークスサポーターズクラブ」という制度を設けている。これは小規模企業や店舗がホークスサポーターズクラブのロゴ使用ができて、優勝セール、応援セールを実施する権利が付与された地元密着型のプログラムだ。球団から見れば地元ファンを獲得するマーケティングを代行してもらうユニークな施策となっている。

選手のSNSアカウント活用 ファンとの強い接点づくり

ソフトバンクホークスは選手もマーケティングに活用している。例えば選手と「勝利のハイタッチ」ができる権利がついたチケットを販売したり、選手自らがオリジナルベースボールカードを手渡す試合前イベントも開催されている。またTwitter、Facebookではチームの公式アカウントはもちろん、球団マスコット「ハリーホーク」のや選手個人のアカウントまで展開しており、球場外でも球団や選手からの発信を積極的に行っている。

これらは選手とファンが直接交流できる機会をできるだけ増やし、ファン獲得とロイヤルティを強めるマーケティングの施策だ。これらの努力が実り、球場定員の96%と毎試合ほとんど満員の状態が続いているという。

かつてのプロ野球ビジネスの中心は放映権で、テレビ中継でできるだけ多くの視聴者をカバーしようとする「広く・薄く」型から大きな転換を図ろうとしている。多様なスポーツが出てきているいま、このようなマーケティング発想はますます重要になっていくだろう。(ZUU online 編集部)