管理職,ストレス,部下
(写真=PIXTA)

60.9%--。

これは仕事や職業生活でストレスを感じる労働者の割合である。厚生労働省が5年に一度実施している「労働者健康状況調査」(2012年)によるものだ。

同調査によると、ストレスの内容の男女共1位は「人間関係」。次いで「仕事の質」「仕事の量」が挙げられている。

こうした状況への対策として、2015年12月に職場におけるストレスチェックが義務化されたが、同時に管理職には、部下への指導法を見直し、的確な指導と良好な人間関係との両立が求められていると言える。

「居場所を得た」と思えることの重要性

職場で求められる良好な関係とはどんなものだろうか。

キーワードは「安心感」である。人には居場所を求める欲求があり、これが満たされると安心感を得ることができる。引越し当初で知り合いのいないうちは不安で落ち着かないが、近所の人々に自分を覚えてもらうことで、居心地が良くなった経験は誰しも一度はあるだろう。居場所を得るとはこういうことである。

これを職場で考えると、部下にとって上司の承認は必須だ。上司に「大切な一員」と認められれば安心でき、仕事への集中力も上がる。反対に承認を感じられない環境は即、居場所がないことを意味し、ストレスになる。

何とか認められようと上司の顔色をうかがい、思ったことも言えずにストレスが増す。また多大なストレスは能力発揮の妨げになるので、仕事のパフォーマンスも低下するという悪循環に陥ってしまう。

だからこそ上司は部下に安心感を与える必要があるのだが、これには「傾聴」と呼ばれる話の聞き方が大変有効である。

傾聴は自分がキャッチャーになるということ

傾聴は自己主張せずひたすら相手に話してもらう接し方であり、カウンセリングでは日常的に用いられる。コミュニケーションは言葉のキャッチボールと言われるが、傾聴は異なる。自分がキャッチャーとなり、ピッチャーである相手の言葉を受け続けるイメージだ。

部下に傾聴で関わることの最も大きなメリットは、やはり安心感を与えられる点である。人は自分の話を何でも受け止めてもらうと、「相手にとって自分は重要な存在」と感じ、安心感を得られる。相手が本来意見を言いづらい上の立場のものであれば、効果はなおさらだ。

これだけでも是非やるべきだが、傾聴には別のメリットもある。その一つが、部下への深い理解である。部下から報告を受けるケースを考えて欲しい。行動と結果くらいしか上がらないのが一般的だ。

しかし傾聴で関わると、行動に至った経緯や考え、その時の気持ちまで知ることができる。部下への理解が深まれば的確なアドバイスも容易になり、指導と人間関係の両立も叶う。

また人は理屈ではなく感情で動くもの。自分を認めてくれる上司の為なら頑張る気にもなる。その為、傾聴には部下のモチベーションを上げる効果も期待できる。

すぐにできる! 傾聴力を上げるコツ

そんな傾聴だが、しっかり習得するには時間がかかる。これまで多くの方に傾聴スキルの指導をしてきたが、日常で自然と使えるまでには1年程度のトレーニング継続が望ましい。しかし、今日からでも実践できるコツがあるので、3つ紹介する。

1つ目は表情。人は相手の表情から気持ちを察するもの。だからこそ相手にとって、無表情や真顔は自分が思うより怖く感じられてしまう。眉間の力を抜き、口角を上げる。話に合わせて表情豊かに気持ちを表現する。苦手な方は、鏡に向かって普段の倍の笑顔の練習をして欲しい。これにより表情筋を鍛えることができる。

2つ目は気持ちの言葉を逃さないことだ。人が相手に最も分かって欲しいもの、それは自分の気持ちである。楽しい、辛い、不安、悔しい……こうした気持ちを受け止めてもらえた時、大きな安心感を得られる。基本は相づちを打っているだけで構わないが、部下が発した気持ちの言葉だけは逃さず、「悔しかったんだな」という風に繰り返す。1つ目の表情もあわせて行うとなお良い。

最後は意見を言わないことである。部下の話を聞いていれば、「それは違う」「こうすべきだ」と感じることが多々有る。しかし、その都度言ってしまえば、部下と距離ができるだけだ。指導は伝わらず、関係も悪くなりかねない。そんな時はグッとこらえてこう考える。

「(部下は)何故こう思ったんだろう」と。

こうして部下の気持ちや考えを引き出した上で、必要なら指導をすれば良い。

指導とメンタルケア。一見相反するものに思えるが、傾聴を使えばその両立は可能である。これまでのやり方で上手くいっていないなら、試してみてはいかがだろうか。

藤田大介 DF心理相談所 代表心理カウンセラー