「上下を意識させる言葉」に注意
丁寧に表現しているつもりでも、実は間違った表現の例をいくつか紹介しましょう。
取引先に商品説明をするとき、「おわかりになりましたか」と聞いたとします。敬語を使っているので問題なさそうに思えますが、相手は自分の能力が疑われたように感じて、不快に感じる恐れがあるのです。
「わかりますか」「読めますか」のように相手の能力を測る質問は、相手の能力を疑っていることになるので注意が必要です。「私の説明でご理解いただけましたか」と言い換えれば、「自分の説明が不足していたかもしれません」というニュアンスが加わり、相手への配慮が感じられる表現になります。
また、目上の人に向かって「よろしいですよ」と言う人がいますが、これも大変失礼です。「よろしい」のように相手に許可を与えるのは、上司や目上の人の役目であり、部下や目下の者が使うのは間違いです。たとえ「よろしゅうございます」と丁寧に表現したところで、語義は同じですから、相手はカチンとくるでしょう。
もし上司の発言に賛同の意を伝える場合は、「ぜひお願いします」と依頼の言葉に換えるか、あるいは「そうしていただけるとうれしいです」と感謝の気持ちを表わすなど、自分のことに置き換えて伝えるようにします。
目上の人を「ご苦労様」とねぎらうことも失礼に当たります。ねぎらいとは、ゆとりのある人がゆとりのない人にかけるものであり、上司に対してねぎらいの言葉は必要ありません。
ただ、どうしても上司をねぎらいたい場合は、「いつもありがとうございます」「部長のおかげで、解決できました。ありがとうございました」のように感謝の言葉に代えると良いでしょう。
また「頑張ってください」と励ますことも、目上の立場や傍観者になってしまうので、失礼です。
ここで紹介したNG例は、どれも「相手に上下を意識させる言葉」です。ほかにも「相手をほめる言葉」や、「~してあげる」のように「相手に恩恵を与える言葉」も、相手を見下すような印象を与えるため、注意が必要です。
言いにくいお願いは「疑問否定文」で
上司や社外の人にお願いごとをする場合、失礼に受け取られないためにどう伝えればいいかは、悩むところです。特に、相手に迷惑なこと、不利益なことを依頼する場合は、言いにくいものです。
たとえば「来てほしい」と伝える場合、「来る」を尊敬表現にして「お越しください」と伝えるのも間違いではありません。ただ、「~してください」というストレートな表現は角が立つ場合もあります。
ワンランク上の敬語を目指すなら、「お越しいただけませんでしょうか」のように、相手が断りやすいような表現がお勧めです。「~していただけませんか」のような疑問否定文には、「相手が~しないことを当然だとこちらは思っている。それでもあえてお願いしたい」というニュアンスが加わるため、相手への配慮が感じられます。また、「恐れ入りますが」などのクッション言葉を添えるのも効果的です。
最後に、ビジネスメールについても触れておきましょう。依頼事項が重なると、丁寧に書こうとするあまり、「~していただけませんか」「~と幸いです」などのような言葉が何度も使われ、かえって読みにくくなることがあります。
敬語は、「文中は簡潔に、文末できちんと締める」のがコツです。依頼事項は要件のみ簡潔にまとめ、文末で「お忙しいところ申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします」と丁寧に締めれば問題ありません。
敬語とは、相手との距離を調整する言葉だと私は思っています。敬語を上手に使えるようになることが、相手との距離を最適化し、人間関係をうまく築くことにもつながります。