◆シンガポール

シンガポールの16年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比1.8%増と、前期(同1.8%増)から横ばいとなった(図表5)。2013年後半から緩やかに景気減速し、直近4四半期は2%弱の低成長が続いている。また前期比年率(季節調整済み)の実質GDP成長率は1-3月期が0.0%増と、前期(同6.2%増)の高い伸びを示していたことからゼロ成長との結果に終わった。

1-3月期は、建設業(前年同期比6.2%増)が公共・民間部門双方が支えとなって好調が続いたほか、製造業(同2.0%減)は輸出不振によって輸送エンジニアリング、精密エンジニアリング、電子産業を中心に6期連続の減少となったものの、マイナス幅は縮小した。一方、GDPの約7割を占めるサービス業は同1.9%増と、卸売・小売や金融・保険を中心にプラスの伸びを維持したもの、前期の同2.8%増から鈍化した。

なお、政府は金融市場の動揺が続いた今年2月に2016年の成長率を1.0-3.0%と、上下に幅を持たせた緩やかなペースを予測している。こうした先行きの景気の弱さを受けてシンガポール通貨庁(MAS、中央銀行)は、4月の定例会合で名目実効為替レート(NEER)の許容変動幅の傾きをこれまでの「緩やかで段階的な上昇(通貨高)」からニュートラルに変更した。世界経済減速の逆風を受けている国内の輸出産業を金融緩和で後押しするものと見られる。

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◆フィリピン

フィリピンの16年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比6.9%増と、前期の同6.5%増から上昇した(図表6)。成長率の加速は4四半期連続、2013年4-6月期以来の高成長を記録した。

1-3月期は、5月の正副大統領選をはじめとした統一選挙を前にインフラ整備を中心に官民の支出が拡大して政府消費が同9.9%増、投資が同25.6%増と高い伸びを記録し、景気を牽引した。またGDPの7割弱を占める民間消費も同7.0%増(前期:同6.5%増)と上昇した。選挙関連の支出拡大に加えて雇用・所得環境の改善、干ばつによる食料のインフレ圧力をコメの輸入拡大で凌いだこと、さらには海外就労者の送金額(ペソ建て)が二桁増となったことも追い風になったと見られる。一方、輸出が同6.6%増(前期:同10.9%増)と、3期ぶりに低下した。サービス輸出(同20.4%増)はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の成長で好調だったが、海外経済の停滞を背景に主力の電気・電子製品の拡大ペースがやや鈍化して財輸出が同1.7%増(前期:同9.0%増)と低下した。

4-6月期も統一選挙の影響で高い成長が続くだろうが、その後は選挙効果の反動で景気は減速すると見られる。また次期政権では財政健全化と外国直接投資に積極的だった現政権の経済政策を継続するとの方針を打ち出されてはいるものの、ドゥテルテ次期大統領(6月30日就任)に期待される強い実行力が確認されるまでは民間投資も伸び悩みそうだ。なお、政府は2016年目標の6.8-7.8%成長を達成すると強気の予想を示している。

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◆ベトナム

ベトナムの16年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比5.5%増と、前年1-3月期の同6.1%増から低下した(図表7)。同国は外資主導の投資の拡大と旺盛な消費需要が追い風となって高成長が続いていたが、1-3月期は約4年ぶりに景気が減速した。

1-3月期は、農林水産業(同1.2%減)が干ばつによる穀物生産の減少、鉱業(同0.9%減)が油価下落を受けてそれぞれマイナスに転じ、さらに主力の製造業も同6.2%増と、直近4四半期の高成長(9%前後)から鈍化したことが成長率低下に繋がった。一方、建設業は同9.9%増(前年同期:同4.4%増)、サービス業は同6.1%増(前年同期:同5.8%増)とそれぞれ上昇した。

政府は2016年の成長率目標を同6.7%増としている。例年、同国の成長率は年末に向けて上昇する傾向があるとはいえ、目標達成には昨年以上に成長ペースを加速させる必要がある。

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(*1)ベトナムのGDP統計は、四半期毎に年初来累計値(1-3月期、1-6月期、1-9月期、1-12月期)が公表される。また年末に向けて成長率が高まる傾向があるため、成長率のトレンドは前年同期の水準と比較して評価する。

斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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