◎アメリカ IT企業の思惑

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今年4月、ナスダックにおいてグーグル株は新たなクラス、クラスC株式、3億3千万株ほどの取引が始まりました。 これは既存の株式を保有している人に1株を無償で付与するものです。つまり、株数は2倍強になり、株価はほぼ半額となりました。株価が半額になることで小口の投資家がグーグル株を入手しやすくなったのは間違いありません。 こうやって見ると普通の1:2の株式分割に見えてしまいますが大きなポイントがあります。 今回、付与されたクラスC株式というものは、通常の株式(クラスA株式)とは違い議決権がありません。 その株式をグーグルは一夜にして手に入れたことになります。つまり、このクラスC株を社員への株式報酬などに使っても、共同創業者の二人はグーグル社の55%を超える議決権を握ったままになります。

まとめると、資金調達はするけど既存経営者の支配構造はそのままだということになります。 こうなると、経営がおかしくなっても、経営者の更迭を求めたくても、誰も何も正す事はできません。 つまり、業績がいいときには問題はありませんが、業績が下落基調に向かった時に経営者が反省的に行動できるかが肝要となります。

もう一つ問題点として、経営が傾き他の企業が手を差し伸べる際にも、議決権がない株式は企業買収の対象とならないことです。そうやって株価が落ち始めた時に、物言う権利のない株式に価値を見出す投資家の人はどれだけいるのでしょうか。 まるで不良債権と化した株価は下がり続けることが予想されます。

クラス分けした株式でのファイナンスは多業種にも広がりつつあります。 この株式を保有する投資家の中には「安定している配当が貰えるよう経営やガバナンスは主要株主で管理してくれればいい」という意図もあります。 しかし、経営に対して投資家が目を光らせ、既存株主が意見を言うことはアメリカが発展してきた資本主義の原点のはずです。この緊張感がコーポレートガバナンスの強化に努める根幹といって差し支えないでしょう。 リーマンショック以前からサブプライムローンの危険性は一部でも声が上がっていたものの、誰が150年の歴史を誇ったリーマンブラザーズが倒産することを予測したでしょうか。

今、アメリカ企業のファイナンスにおいて広がりつつあるクラス分けの株式発行はこれと似た危険性を十分含んでいるのです。 IT企業を多く抱えたナスダックがこのまま下落していくのか、調整局面として更に上昇するか、今は大きな転換期に差し掛かっています。