「払いすぎた利息を取り戻せるかも」「過払い金請求の時効が迫る」--。

そんなフレーズをテレビCMなどで耳にしたことを覚えているだろうか。そもそも利息を「払いすぎる」という事態は、なぜ生じたのだろうか。それを取り戻せる法的根拠は何なのか。問題の原因と経緯を振り返ってみよう。

借りた額「だけ」を返しても終わらない――利息と金利のキホンと現状

ローンなどで一定期間お金を貸し借りする際には、借り手は貸し手に対して利息を支払う。

その利息を年率で示したのが「金利」である。1000万円を金利5%で借りると、1年間に支払う金額は50万円。逆に銀行に預金があれば、一定の金利に基づく利息を受け取れる。

金利と聞いて思い浮かぶのが、昨今話題のマイナス金利。日本の金融機関には、預金者への支払いを確実にできるよう、日銀の当座預金に法定準備金を預ける義務がある。

しかし近年、金融機関は法定以上の資金を日銀に預け、これに0.1%の金利がついていた。この資金が市場に回るように、当座預金の一部の金利を-0.1%に下げたのがマイナス金利政策だ。

多くの人が気になるのは、住宅ローンやカードローンの金利だろう。住宅ローンはマイナス金利政策の影響で0.5%を下回る銀行が増えているが、銀行カードローンの金利は3.0~18%、消費者金融なら15~18%。上限金利18%で100万円を借りれば1年18万円の利息で、相当な高利と言える。

しかし2010年6月以前には、18どころか29%もの高利で貸借が行われ、多重債務者を生んでいた。その問題の根本がグレーゾーン金利である。

黒ではないが白でもない――かつて存在した「グレーゾーン金利」

借金の利息を表す「トイチ」、「トニ」という言葉に聞き覚えはあるだろうか。Vシネマでおなじみの『ミナミの帝王』に登場する貸金業者・萬田銀次郎の設定する利息は「トイチ」。10日で1割、金利換算で365%という法外な高利である。トニは10日で2割(730%)となる。

金銭消費貸借契約では、貸し主と借り主とで自由に利率を決められるが、それはあくまで法定の範囲内での話。2010年6月以前、利息制限法が定める金利は、10万円未満で20%、100万円未満で18%、100万円以上で15%。

また出資法で罰則の対象となるのは29.2%以上だった。これを上回る金利で貸すことは違法で、白か黒かで言えば明らかに黒。それゆえ萬田銀次郎らの行う金融業は、「闇金融」もしくは「裏金融」と呼ばれる。

闇金業者が法律違反であることは明確だが、問題は、利息制限法が定める20%以上で、出資法が定める29.2%未満の部分。この民事上では無効だが刑罰が科されない金利の幅、黒とは言えないが明らかに白ではない部分の金利こそが「グレーゾーン金利」である。

グレーゾーンを撤廃に追い込んだ二つの最高裁判決

貸金業規制法には、所定の事項を記した契約書を交わし、借り手が任意で利息を払うなどの要件を満たせばグレーゾーン金利の支払いを有効とする「みなし弁済」規定があった。消費者金融はこの規定に則って金利29%もの高額の利息を取り、多重債務者を生んでいた。

この「みなし弁済」の要件解釈を争った裁判で出た2004年2月の最高裁判決が、歴史の転換点となる。消費者金融の契約約款に「約束した利息の支払いが遅れたら残金全額を一括で支払う」との条項があり、「債務者はこれを避けるために利息を払ったから任意ではない」との見解が判決の補足意見として付いたのだ。

これを踏まえて2006年1月、「この条項がある場合は任意とは言えず、グレーゾーン金利は違法」との最高裁判決が出るに至った。

この結果、貸金業者はみなし弁済を主張できなくなり、返還訴訟を起こせば利息が取り戻せるようになった。さらに、最高裁判決を受けた2010年6月18日の法改正で出資法の上限金利は20%に下げられてグレーゾーン金利は違法となり、みなし弁済規定も撤廃された。

吹き荒れる返還訴訟の嵐と「過払い金請求バブル」

2011年12月に「不当と知りつつ利息を得た消費者金融は、過払い金に利息をつけて返す義務がある」とする最高裁判決が出て以降は、返還訴訟が急増した。

2006年には6万45件だった過払い金などに関する民事訴訟件数は増え続け、2009年には14万4468件を記録した。利息返還金額も2007年度4724億円、2009年度には6589億円に上った。

テレビCMや電車の中吊り広告など、過払い金請求を勧める宣伝も巷(ちまた)にあふれた。ほぼ事務手続きのみで高額報酬が得られる過払い金請求は、多額の広告費をかけても利益が出る、弁護士たちにとって「おいしい」ビジネス。某法律事務所は累計1695億6364万円を回収したという。弁護士報酬が2割程度とすると……相当な利益が想像できる。

グレーゾーン金利を違法とした最高裁判決から10年、裁判件数は減少傾向にあるが、「過払い金は10年たつと時効で消滅。返金期限が迫る」と訴えるCMを見かける。

だが過払い金返還期限の起算点は完済した時点で、最高裁判決とは無関係。グレーゾーン金利に基づく利息を払った人は、完済時点から10年以内なら、過払い金と利息が戻る可能性がある。

とは言え、訴訟で戻るのは過払い分のみで、法定内の利息が戻るわけではない。アメリカの政治家・気象学者のベンジャミン・フランクリン曰く「借金をするのは自由を売ること」。無用な借金はしないに限る。やむをえず借りたなら可能な限り早く返すことが原則だろう。(ZUU online 編集部)

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