営業員が勧めたから購入したのに大失敗だった……。そうならないためにも、金融商品を購入する際には、各商品の特徴を自分で理解した上でポートフォリオに加えていただきたい。ここでは、証券会社のホームページから注意すべき商品と実際にあった失敗事例をレポートしていこう。

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1)カバード・コール+通貨選択型投信

A証券の買付金額第3位にランクしていた商品には唖然とした。「割安株、カバード・コール、為替取引活用」という3つのカテゴリーから収益機会を狙うとされている。

カバード・コール戦略とは何か

本事例でのカバード・コールとは保有資産(株式)を対象(カバーされている)としたコールオプション(コール買う権利)を売却し、オプションプレミアムを受け取る、というものだ。もう少しわかり易く言えば、割安株式の上昇幅をあきらめる代わりに、「あきらめ料」をもらう。カバード・コールのプレミアム(あきらめ料)が原資となり、分配金が多いため「見た目が良く見える商品」となっている。

割安株式に投資をするリスクを取って、その株式の大きな上昇を目指す場合もあるだろう。しかし、この仕組みを持つ商品はその上昇幅をあきらめる選択をしている。

為替取引は「投資ではなく投機」

この投信は複数の通貨クラスを選択できる。通貨間の金利差プレミアムを受領することで、またも「分配金の見た目が良く見える商品」になっている。

通貨為替選択肢の一例には、ブラジル、チリ、インド、インドネシア、中国、トルコを組合せて、その短期金利は加重平均で8.2%となっていた。通貨の収益機会を求めることは実は「投資でなく投機」である。高い金利という理由での新興国通貨への投機リスクを取る選択は筆者には全く理解できない。

高コストは金融機関の収益に貢献するだけ

上記のカバード・コール戦略が組み込まれた投資信託のコスト分解をしてみた。

購入時手数料:3.24%(5000万円未満)
信託報酬:2.153%
換金時、スイッチング時:0.5%

初年度購入時のコストは約5.4%にもなっている。高いコストは金融機関の収益には貢献するが、そのぶん投資家のリターンには悪影響を及ぼす。

低コスト運用での代替を考えてみた

かつて考えてみたことも無いのだが、同様の戦略を低コストで実現できる代替運用を考えてみた。その答えが「ETF+FX」である。

例えば、米国の割安株のETFのコストは信託報酬が0.08%、購入時手数料ゼロ(株式購入手数料は別途発生)、通貨への投機はFXで代替。

実際に投資するつもりもなく正確なコストは不明だが、上記の約5.4%とは比較にならない低さとなることは明白である。

2)3倍レバレッジ型日本株投信

続いて、A証券の買付金額第4位にランクしていたのは、「3倍レバレッジ型日本株投信」だった。この商品は、株価指数先物取引+株式の合計のポジションを使って投資額の約3倍に調整し、その株式市場の値動きの3倍程度を目指すという商品だ。てこの原理を使うことから、レバレッジ型とも称される。このレバレッジ型は長期運用には向かない。開始時期の基準から長期になるにつれて、3倍パフォーマンスとかけ離れてしまう現象が起こりやすい。この商品も上記と同様にコスト分解してみた。

購入時手数料:2.16%
信託報酬:1.0044%
換金時・スイッチング時:0.54%

合計で約3.7044%と、先述の投信よりはずっと低コストだ。しかしこれも代替にETFを使えば(2倍連動ではあるが)、販売時手数料ゼロ、信託報酬0.75%程度となり大幅なコスト削減が可能である。

ここではこの商品に投資して失敗した実例から、別の観点の問題点を見ていこう。

3倍レバレッジ型に投資した退職金運用

「とんでもない事になってしまった」と元気の無い声の主は語った。聞けば大手証券会社に勧められ、日経平均の動きの3倍の動きをする投資信託に投資を行い、数千万円の目減りをしているということだった。まさに上記の投信である。

この例では、残念なことが2つある。(ⅰ)老後を支える大事な退職金の運用であることを、この大手証券会社の営業員が考えていないことに気づかなかったのか(ⅱ)なぜその証券会社で、その担当者を信じて運用しようと決断してしまったのか

残念な投資家Aさんは長年上場会社に勤務、役員にまで登り詰めた人物。退職金の運用は将来の生活防衛を目的とした低リスク運用で良かったと思う。しかし、なぜギャンブル的な「3倍レバレッジ型」に投資し、大事な財産を大幅に減らす結果になってしまったのだろうか。

運用失敗の原因8つのポイント

筆者が考える失敗の原因や、あるべき姿は以下の8つだ。

1.営業員は自分のノルマ達成のために、手数料の高い商品を売ることや、商品が入れ替わって手数料を得る機会が大事で、お客様の生活設計を行うという大事なミッションを放棄してしまった

2.証券会社の上司や組織としての牽制が効いていなかった
証券会社は、手数料が儲かる商品でなくとも「退職金の運用に相応しいリスク」のものを伝達すべきで、営業員の3倍型集中投資提案に対して警鐘を鳴らすべきであった

3.投資家本人のリスク許容度を担当者が考えることがなかった。

4.投資家本人のリスク許容度を投資家自身が考えるべきだった

5.退職金というまとまった資金が通帳に入り、高揚感で冷静さを欠いていた

6.上場企業の役員に登り詰めた経歴があったことで、「自分が選ぶ商品には間違いない」と投資にも自信過剰になってしまった

7.ヒトを見ずに大企業だから安心と考え、この営業員が信頼に足ると誤った判断をした

8.対面証券があえて同社にとって低採算のETFを提案することは期待できず、収益の大きな商品が提案の中心であろうことを理解していなかった

商品特性に加え、リスク許容度とコスト判断が重要

カタログ的な商品という切り口で「仕組み債はダメ」「分配型投信はダメ」といった、○×を付ける一覧表が良くメディアに登場している。しかし、この「3倍レバレッジ」という商品がダメだったと言えるのだろうか。

あえて今回の失敗事例に○×を付けるならば、売り手の営業員が顧客に親身でないことが一番の問題だ。「投資家ニーズ×(ニーズにあっていない)、投資家のリスク許容度×(退職金)、長期運用×(コスト高)」という結果だろう。

商品の良し悪しの判断は確かに重要だ。しかし、加えて、投資家自身が自分を守るために必要な金融知識「金融ケイパビリティ」を持つことが重要だ。それが十分に備わっていない投資家は、金融機関の利益誘導のための「商品の売り手」とは一線を画すという知恵を持つべきだ。

安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPAN おカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。