英国で6月23日に行われるEU(欧州連合)からの離脱の是非を問う国民投票。IT産業の観点から考えた場合、いったいどのような影響があるのかを考えてみたい。

米国はシリコンバレー 英国はシリコングレン

米国には良く知られた「シリコンバレー」があり、現在でもIT産業が集約されている場所になっている。

英国でこれに相当するのが「シリコングレン」だ。これはスコットランドにあり、ダンディー、インバークライド、エジンバラを結ぶ三角形の中に存在する。

2000年前後のITバブル崩壊時に大きなメーカーの撤退が相次いだものの、サンマイクロシステムズやオラクル、IBMやマイクロソフトといった主要メーカーはいまだにシリコングレンに拠点を構え、7万人以上の雇用をこの地で生み出している。

それに携わるイギリスのIT従事者の給与水準は高く、また労働時間などの条件も決して悪くない。日本のIT産業は「ブラック企業」と言われて久しいが、少なくともイギリスではブラック企業の扱いは受けていない。

また全産業に関して言えるが、業務そのものはかなり細分化・専門化されており、日本のようにプレイングITマネージャーやシステムエンジニアがユーザPCの設定やヘルプデスク、サーバの構築や設定、外注しない規模のプログラムなど一連の作業をすべてこなすというケースは非常に少ない。

欧州のIT従事者の出身として最近注目されているのは、ルーマニアやハンガリーといった東欧諸国やロシア。アウトソース先(英国からみれば文字通り「オフショア」)としてはエジプトなどのアフリカ諸国も注目されている。

東欧からのIT従事者はもちろん給与水準の高い場所を目指すので、彼らは自国でキャリアを積んだ後、西欧諸国に向かう。

ただし2004年5月のEU加盟国大幅増加を迎え労働力の急激な移動を警戒し、東欧諸国からのEU圏内への労働力移動にはいわゆる「2-3-2ルール」という制限――最低でも7年間は移動に制限を加える――という条項があった。

しかしこれも期限切れを迎え撤廃され、東欧の優秀なIT従事者が英国に渡って行く。

これがもしイギリスがEUを離脱したらどうなるのだろうか。

移民の問題は各国のナショナリズムにもよるが、移民排斥という意思からEU離脱が決まってしまうのであれば、まずこの部分にメスが入れられることは必至と思われる。

離脱はIT産業にもネガティブ

IT従事者の不足は万国共通の問題だが、東欧諸国からの労働力移動が制限されるのであれば、単純にIT従事者の労働力が不足し、一時的にせよ競争力の低下が予想される。

そうなると、英国からみて海外にあるIT企業がイギリスに拠点を置くメリットも少なくなり、直接東欧に拠点を移すことを考える企業も出てくるのではないか。英国が“英国病”を克服して徐々に力をつけつつあったIT産業のメリットも失われるのではないだろうか。

半導体のような設備投資が必要な分野であれば即断は難しいものの、ソフトウェア開発のような分野であれば設備投資はほとんど必要なく、移転に関する障壁は低い。

根本的には、英国がEUを離脱した場合の経済的影響は悪い予測ばかりであり、そのどれもが理にかなった、しかもシンプルな理由付けがされている。IT産業も同様であり、英国がEUを離脱した場合は少なからず影響は出ると推測される。

ただIT産業の場合、判断が難しいのは「東欧以外にも労働力供給地はたくさんある」という点だ。それこそ旧宗主国の地位的なメリットとして、インドやスリランカなどの労働者を確保できる可能性を残しており、単純にEU離脱がIT産業に悪影響を与えるとは言えない部分も残る。

東欧諸国からの労働力確保のメリットが失われると、このようなコモンウェルスからの労働力確保と比較して、少なくとも法制度上では並ぶことになる。

いずれにしろ複雑で難しい問題が国民の直接選挙によって判断されるというのも、興味深いところだ。(ZUU online 編集部)

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