一億総活躍社会の実現に向けて、働き方の多様化が進む中、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが「がん治療と仕事の両立」について調べたところ、罹患(りかん)後の転職では43.8%が非正規社員になっている実態が明らかになった。
この調査は、がん罹患時に正社員として働いており、現在も何らかの形で仕事に就いている65歳以下の男女978人(男性670人、女性308人)を対象に行った。がん治療と仕事の両立について、職場での働き方の変化や支援制度の利用状況が明らかになっている。
復職後の部署や配置転換は「希望以外」が約3割
本調査では、男性は50代での罹患が最も多い(50.6%)。40代(35.1%)を合わせると85.7%に上り、罹患時の役職は約半数(45.1%)が課長以上の管理職である。女性は40代での罹患が約半数(47.7%)であり、30代(29.9%)を合わせると77.6%が40代以下での罹患となる。
がんの種別では、男性は「大腸がん」が最も多く(27.3%)、「胃がん」(17.8%)「肺がん」(9.1%)と続く。女性は「乳がん」が約半数(45.5%)を占め、次に「子宮頸がん」(19.5%)となる。
がん罹患後の労働時間を見ると、1年間は週あたり「40時間未満」が約4割を占める。罹患後は一時的に労働時間を抑える傾向が顕著である。職場では、罹患後に身体に負担の少ない業務への転換や、仕事内容の変更、勤務時間の短縮を経験した人が約2割となっている。
復職後に所属部署や配置の変更があった場合に「自分の希望以外だった」という回答は約3割(28.7%)に上る。一方で「希望通りだった」は半数以上(55.3%)である。
この様に、がん罹患後のキャリアには、がんの種類や術後の症状により、同じ仕事を続けることができるか、または配置を換えて働くことになるかの岐路がある。いずれにしても体調を優先して、無理なく働ける職場環境に身を置くことが大切と言える。会社が整備している支援制度も十分に把握しておきたい。
キャリア継続のカギは「上司・同僚の理解」
罹患後の勤務先の変化を見ると、「同じ勤務先で働いている」は86.0%。「退職し、転職・再就職して現在も働いている」は14.0%。調査結果では8割以上が、罹患後も同じ職場で正社員として働いている。
同じ職場で働いている理由としては「職場の上司の理解・協力があったため」「職場の同僚の協力があったため」の割合が高く、これらは特に「(進行度)㈼期以降」「通院治療をしていた」人からの回答が多い。術後の就業継続の有無は、上司・同僚の理解と協力によるところが大きいことが分かる。
がん罹患後に職場を退職した理由では、㈵期以前では「治療と仕事を両立するために活用できる制度が職場に整っていなかった」、㈼期以降は「体力面等から継続して就労することが困難であった」の割合が高い。その場合、転職後は約4割の人がパートやアルバイト、契約・派遣社員といった非正規社員として働いていることにも着目しておきたい。
がん罹患後の就業継続には上司・同僚の理解と協力が欠かせないが、それは企業の両立支援制度が整っていればこそ、の話とも言える。働いている企業の両立支援制度について、その有無を見ると企業の規模により大きな差がある。
例えば「半日・時間単位の休暇制度」は従業員1000人以上の企業で67.8%が「あった」とする一方で、1〜99人の企業では37.7%。「治療目的の休暇・休業制度(金銭的補償をともなうもの」は同50.2%に対して、同28.4%。「失効年次有給休暇の積立制度」は同47.4%に対して、同13.3%である。
しかしながら、これら両立支援制度の実際の利用では、企業規模による大きな差は出ていない。例えば前述の「治療目的の休暇・休業制度(金銭的補償をともなうもの)」は従業員1000人以上の企業では28.2%が利用。1〜99人の企業で25.2%の利用となる。大きな規模の企業では、がん罹患者が安心して両立支援制度を利用できる職場の環境作りに、改善の余地があることが見て取れる。