5月28日に北海道で発生した小学生行方不明事件。1週間後に無事保護され、そのニュースに安堵した方も多いだろう。一方で行方不明となったきっかけも注目を集めた。
「しつけで山へ置き去りにした」
家族で訪れた公園で人や車に石を投げつけていた子供へのしつけで、山奥へ置き去りにしたという父親の言葉に私は耳を疑った。後にこの子供が以前から同様のイタズラをしていたこと、注意していたが聞かなかったことなどが分かったが、カウンセラーとしてはこの父親の行為を「しつけ」だとは到底認められない。
しつけのあるべき姿
しつけ(躾)は、漢字で「身」を「美しく」すると書く。それぞれ「身」には自分自身、「美」には良いという意味があることから、しつけとは、「子供が将来良い社会生活を送れるよう、必要な礼儀作法や社会規範を教え、身につけさせること」と言える。
この点において、前述の父親の「山へ置き去り」といった罰を与えたり、厳しく叱り付けたりすることは、実は、非常に効果が薄い。なぜなら、罰を受けた子供が強く覚えるのは、怒られて悲しい・怖いといった負の感情である。その後行動を改めることがあっても、それは親に怒られない、嫌われない為であり、自身の行動を反省したからでは無い。
子供のいたずらは愛情飢餓の表れであることが多い。思春期に好きな子の気を引きたくてちょっかいを出した経験は誰しもあるだろうが、心理的にはこれと同じ。いたずらは、子供なりに親や友人に構ってもらうため一生懸命考えた末の行動なのだ。頭ごなしに叱っては逆効果。愛情への飢えはさらに募り、イタズラもエスカレートしかねない。
しつけにおいて大切なのは、「それは悪いこと」と叱ることであって、罰することではない。普段から礼儀作法や社会規範を子供が分かる言葉で教え、繰り返し一緒に行うことである。同時に、日頃の振る舞いにも気をつけるべきである。子供は親の何気ない言動をよく見ているものだ。
言葉で教わる以上に、親の振る舞いを真似て成長していく。私自身、どれだけ忙しくても愚痴をこぼさず一生懸命働いていた父と、礼儀正しく誰にでも笑顔で親切に接していた母の姿は今でも覚えており、無言の教えとして今の自分の基盤となっていると実感している。
今回の北海道の一件に関して、日頃の子供への接し方までは明らかになっていないが、言うことを聞かなかったための罰であった以上、これはしつけではなく、親の身勝手と言わざるを得ない。
しつけは日本の経済にも影響を及ぼす
間違ったしつけを受け続けた子供はどうなるだろうか。
子供にとって親は絶対的な存在である。嫌われては生きていけない。それ故、叱られるだけのしつけを受けてきた子供は、親に見捨てられないようにと顔色を伺い、自己主張を控え、親に好かれる子供を演じるようになる。
これらの行動パターンは次第に習慣化され、誰と接しても親以外の人にも適用されてしまう。そうして過ごす日々は、不安と恐怖に満ちており、ストレスフルだ。遅かれ早かれ耐えきれなくなり、休職や離職をすることになる。実際、会社に馴染めず心を病んで相談に来られる方の幼少期の話を伺うと、そのほとんどが親の身勝手なしつけを受けている点で共通している。
実は最近、「働けない若者」や「大人のひきこもり」の問題が注目されているがが、そうした現状を招いた一因もここにある。彼らは働きたくない訳ではない。働きたくても社会に出られないのだ。
さらに、しつけは今後の日本経済にも悪影響を及ぼしかねない。少子高齢化による労働力の減少は、そのまま国の経済衰退につながる。安心して子供を産み育てられるよう様々な出生率向上目的の施策がなされているが、このままでは「働けない大人」を増やすだけだ。これでは意味がないだけでなく、彼らの生活の補償に費用がかさむ分、事態は悪化する。
子供のために未来のために
しつけは、子供の未来にとって、また日本の未来にとって大変大きな意味を持つ。一方で、近所のおじさん、おばさんに代表される“斜めの関係”が失われた現代の生活環境では、子育てにおける親の負担が大きい。また経済的に共働きが必要な場合は、さらに負担が増え、ストレスも増す。心に余裕がなくなれば、“つい”感情的になり子供に厳しくあたってしまうものだ。
だからこそ親が子供を第一に考え、日頃の振る舞いにまで気をつけた正しいしつけを行うことだ。それとともに、早めはやめに自身のストレスケアをし、いざという時に手を借りられるご近所さん作りをするなど、安心して子育てをできる態勢を整えて欲しい。
藤田大介 DF心理相談所 代表心理カウンセラー この筆者の記事一覧
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