英国が欧州連合(EU)離脱をすることが決定し、先行き不透明から不安心理が市場を支配し始めた。こうしたなか、著名投資家たちのリスクオフ戦略や、その違いに注目が集まっている。
なかでも、伝説的な米投資会社クォンタム・ファンドを1969年に共同設立したジョージ・ソロス氏(85)とジム・ロジャーズ氏(73)の目の付け所の違いが際立つ。ソロス氏は金と金鉱山株の上昇に賭けるロングのポジションをとる一方、ロジャーズ氏は米ドルの上昇に賭けている。
「ゴールドのソロス」と「ドルのロジャーズ」の違いには、両人の歴史観や哲学観、さらに大局観が影響している。さて、最後に笑うのはソロス氏だろうか、はたまたロジャーズ氏か。まず、彼らの投資哲学の基本をおさらいしよう。
リベラル派のソロス氏、保守派のロジャーズ氏
クォンタム・ファンドにおいてトレーダー役だったソロス氏とアナリスト役を務めたロジャーズ氏は、「同じ釜の飯を食った戦友」であり、協力して10年の間に驚異の3365%というリターンを叩き出した。だが、経営方針の違いから1980年に別の道を歩む。両人とも投資家としては引き続き大成功を収めるのだが、投資方針はかなり違うものとなった。
哲学で博士号を取得したリベラル派のソロス氏は、「市場は常に間違っている」という信念に基づいて、市場は投資家の行動により常に変化し続けるとする「再帰性理論」を唱える。たとえば、投資家が「合理的に」株価上昇を追い求めれば、逆説的にバブルが生まれるのが好例だ。投資家の思考の不確実性と、現実の出来事の不確定性の双方向の響き合いに注目しながら、ソロス氏は主に通貨投機で儲けてきた。
それに対し、歴史学の学士号を持つ保守派のロジャーズ氏は、国際情勢からマクロ経済、金融政策、社会のトレンドなどが引き起こす需給の変化を綿密に調査して、そこから価格の大きな上昇または下落を予想してポジションをとる「グローバル・マクロ」方式を重んじる。取引も株式・通貨・商品と幅広く手掛け、肯定的な変革・改善が見られる(あるいは予想できる)企業や国に長期的投資をして利益を上げるスタイルだ。良い例が、中国株のポジティブさに着目して投資を増やすロジャーズ氏の「中国推し」である。
相対的なロジャーズ氏の投資観 「ドル推し」は仮の安定性
では、両人の投資哲学の違いは、英国のEU離脱という一大イベント前後の期間、どのような方針となって現れたのだろうか。興味深いことに、ソロス氏もロジャーズ氏も、英国離脱前からリスクオフ姿勢を維持している。昨年あたりからゴールドを買い増してきたソロス氏は「ゴールド推し」からブレず、リスク回避は米ドルだと唱えてきたロジャーズ氏も、「ドル推し」の立場を堅持している。
ロジャーズ氏は6月28日のインタビューで、「金は今年に入ってから値を削っていたが、英国のEU離脱で跳ね上がった。私は、そんな風に急騰する投資先は疑ってかかるんだ」と語り、「安全な逃避先としては、ゴールドよりドルだね」と結んでいる。事実、対日本円など一部通貨を除き、ドルは買われて上げている。
だが、ロジャーズ氏は決して「ドル一筋」なのではない。「相対的に見て、リスクオフには米ドルが金より優れているだけだ」との主張で一貫している。4月下旬のインタビューで、「市場で不透明さが増せば、人々は安全資産と信じるドルに殺到するので、ドル高になる。だが実は、ドルは安全資産ではない」と述べている。その理由は米政府の巨額の財政赤字であり、いつかドルは過大評価されるようになると予想している。彼はさらに、「そうなったら、私は躊躇なくドルを売る」と明言した。仮の安定性に投資しているに過ぎないのである。
一方、金については「ヘッジしている」として、「数年内に1オンス当たり1000ドル以下に下がると思う。その時には、買い増すよ」と付け加えた。ちなみに、1月の対談では、「ドルが上がるときには大抵、金価格が下がる。そうなれば私はドルを売り、何か別のもの、恐らくは金を買うことになる」としている。あくまでも、需給の変化予測に基づいた相対的な物の見方だといえよう。