ゴールドに集中するソロス氏 本能的な世界情勢予測

翻って、2011年に「引退宣言」を行い、しばらくの間トレードから遠ざかっていたソロス氏だが、今年に入ってカムバックを果たし、米国株の下落に賭けるショートを拡大する一方、金と金鉱山株の上昇に賭けるロングのポジションをとった。金は、昨年から買い増しを続けている。ただし、ソロス氏はロジャーズ氏のように金やドルについてメディアにコメントをしておらず、その考えは実際の行動や再帰性理論から推察するしかない。

英国EU離脱の不安から、長らく低迷していた金価格は上昇を続け、7月5日に一時1オンス当たり1371ドルの高値をつけた。多くの専門家は、「近いうちに1400ドルの壁も突破する」と見る。ソロス氏は英国離脱そのものは予想できなかったが、大局的なリスクオフ相場の到来については、ピタリと当てている。

最後に笑うのはどちらなのか? 現時点ではどちらも正しい

こうしたなか、「ゴールドのソロス」と「ドルのロジャーズ」のどちらに軍配が上がるのか。金もドルも上昇する現時点では、両人とも判断が基本的に正しいように見える。強いて言えば、ドル高が米経済にもたらす悪影響を嫌う米当局の思惑でドルが下落する可能性があるのに対し、金は不透明感の高まりで引き続き買われやすい地合いが強い。

ソロス氏は、「まず投資し、そして後に調査しろ」「最終的には、自分の生き残り本能に頼るしかない」との発言で知られる。ゴールドへの賭けも、本能的な世界情勢予測と「投資家と市場の響き合い」の理論的な読みから来るのかもしれない。一方のロジャーズ氏は、ドルやゴールドなど特定の投資先への思い入れはなく、市場に吹く風を分析し尽くした上でロングの判断を行い、その決心を堅持している。

政治的・地政学的な大変動が世界を覆い、経済がそれから逃れることができない今、投資に求められるのはソロス氏のような動物的な勘と、ロジャーズ氏のような柔軟さかもしれない。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)