ポイント1:イタリアの銀行の不良債権の規模は?
イタリアの銀行の不良債権は、資本に対する割合からするとワースト4位で(図表1)、ギリシャやキプロス、ポルトガルに比べれば問題は小さいようにも見える。
しかし問題は、その絶対値の大きさである(図表2)。欧州の中では、不良債権の額はイタリアが突出している。しかも、欧州主要国の中ではソブリン危機後最も悪化度合いが大きい(図表3)。ECBの定義によれば、15年12月末時点のイタリアの銀行の不良債権額は3,600億ユーロ(約40兆円)で、与信に対する比率は約18.1%となっている(連結ベース)。18%という比率は、日本の長信銀のピーク時のレベル(14%、開示の範囲の最大値)よりも高い。
但し、イタリアでは、担保、保証が付いている不良債権の割合は67%と高い(この担保・保証を頼りにしすぎたことが処理を遅らせた要因とも言われている(IMF))。残りの無担保・無保証部分についても58.6%が引当金計上済みと開示されている(Bank of Italy, 2015年12月)。
これらに基づき推計される無担保・無保証・未引当の債権額は5兆円程度である(非連結ベース)。この金額はさほど大きくはない。しかし、すべて処理した場合の自己資本比率の落ち込みをどうやってカバーするのか、景気の落ち込みで不良債権が更に拡大するようなことはないのか、不動産価格の下落で担保はどこまで有効なのか、個人保証はアテになるのか等、不透明要素が多い。
ポイント2:そもそも不良債権の定義はどうなっているのか?
イタリアの銀行は、かつては、債務不履行を起こした与信のみを「不良債権」("sofferenze")として開示していた。しかし、2014年に設立された統一銀行監督システムの下で、2015年1月からは統一の、より広い定義で不良債権が開示されるようになった(図表4)。従って、もはやイタリアの不良債権だけが甘い定義になっているわけではない。
ポイント3:不良債権は、なぜここまで増加してしまったのか?
イタリアの不良債権比率の上昇には、1)中小企業向け貸出中心だったため回収が難しかった、2)不動産価格が下落した、3)早めの不良債権処理には税制上のデメリットがあった、4)前述の通り、定義がECBルールに統一され、見かけ上不良債権が増加した、などが関係している。
1)中小企業向け貸出
イタリアの不良債権のうち、約30%が中小企業向けのローンと、欧州平均の20%程度よりも大きい。中小企業向けだったため、ドラスティックな回収が図りにくかったとされる。業種としては、建設や製造業が多く、不動産業は1割強程度と報道されており、さほど大きくはない。
2)不動産価格の下落
不良債権に占める不動産業向け貸出の割合は大きくないものの、不動産は担保として利用されている他、さまざまな経済活動の元となっている。その不動産価格が、欧州の多くの国で上昇しているのに対し、イタリアでは近年下落傾向をたどってきた(図表5)。
3)不良債権処理の法・税制の不備
不良債権処理のための法・税制も不備が多かった。まず、法人についての破産認定のプロセスが極めて長くかかったことから、2015年には、法定外の処理手続きを可能にする破産法改正を行った(図表6)。
また、税制についても、以前は、引当金の課税所得控除は、法定で企業倒産が正式に認められない限り、貸出元本の0.3%までしか認められなかった。残りは「繰延税金資産」として、18年間にもわたって繰り延べられるなど、税制上のデメリットが大きかった(ECB)。これが、2013年には5年償却が認められ、昨年には全額償却が認められるようになった。
更に昨年、不良債権処理のために不動産を処分する場合の不動産の登記手数料を9%から200ユーロ固定に変更するなど、政府も、不良債権処理を促進させるためのさまざまな施策を打ち出してきている。