ポイント7: 万一イタリアの銀行が破綻した場合、日本や世界の金融機関に対する影響は?

イタリアの銀行に対する与信額は、フランスが圧倒的に大きく(図表10)、4兆円強となっている。これ以外にも、デリバティブ等のリスクも負っている可能性がある。

しかし、それ以外の国のイタリア銀行向け与信は、ごく小規模となっている。例えばドイツは、合計115億ドル=1.2兆円程度であり、一部の銀行に集中していたとしても壊滅的打撃を与えることはないだろう。日本に至っては、21億ドル=2,000億円程度とごく軽微である。

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しかし、間接的な影響は無視できない。今回イタリアの銀行にベイルインが発生すれば、1月に制度が導入されてから初のEUの商業銀行によるベイルインとなる(注)。現状、必ずしもすべての債券投資家がベイルインリスクを織り込んでいるわけではないため、欧州の銀行の債券全体の価格下落に繋がりかねない。

邦銀の場合ベイルインの制度はEUとは異なる。しかし、市場全体の価格下落から無縁ではいられないだろう。今後も継続的に海外債券の発行を計画していることから、市場の環境悪化の場合は大きな影響を受けることになるだろう。

(注)今年4月にオーストリアの不良債権受け皿銀行ヘタ・アセット・レゾリューションで、優先債、劣後債、株式の元本カット(ベイルイン)が発生した。これがEUにおけるベイルインの初のケースとなった。しかしこれは不良債権の受け皿機関であり、一般の商業銀行ではなかったため、市場に大きな混乱は起きていない。

ポイント8:銀行の経営難が政治的な影響を与える可能性はあるか?

前述の通り、イタリアの場合、万一ベイルインを行った場合の国民の金融資産に対する影響は大きい。このため、今後EU政府が全く妥協しないで銀行債券保有者などに損失を生じさせた場合、EU政府への怨嗟の念が拡大する可能性は否定できないだろう。

折しも、イタリアは急進派の5つ星運動が活発化しており、BREXITも追い風に、反EUの機運が高まる可能性もあるだろう。

ポイント9:今後考えられるシナリオは?

上記のような特殊事情から、イタリアでは個人債権者を例外扱いとし、損をさせないことを、EU政府が認めるという可能性はあるだろう。しかし、始まったばかりの制度を早くも曲げることは、銀行同盟の後退をも意味する。そのような措置をEUが決定するには、まだ時間が必要とみられる。

なお、7月7日には欧州委員会は、スペインとポルトガルの財政健全化が遅れているとして、EU財務相理事会に対し、両国に罰金を含む制裁措置を行うよう勧告した。7月12日のEU財務相理事会で判断される。

決まれば最大GDPの0.2%の罰金が両国それぞれに課される可能性がある。景気後退が懸念される中で、これが決まるかどうかは、EUが規律をどの程度重視しているかを示す試金石となるだろう。

ポイント10:今後の日程は?注目すべきイベントは?

今後の欧州での政治日程は以下の通りである。なかでも、7月29日のストレステストの結果については注視が必要であろう。

2014年10月に発表された前回のストレステストでは、25行の不合格行のうち9行をイタリアの銀行が占めた。これを受けて資本増強も行ったはずが、再び不合格となればより抜本的な施策を求められることになる。更に、ドイツ、アイルランドなどの銀行が注目される。

金融株は、水準的には相当割安な水準となっている。しかし、イタリアの銀行に関する政治的な決着が不透明な中、まだしばらくは落ち着かない展開が予想される。邦銀に対する長期投資については問題はないが、短期投資、および欧州の金融機関については、株式、債券ともに当面様子見が得策であると思われる。

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大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

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