世界の奴隷労働の実態
世界において現代の奴隷労働を含む「強制労働の実態」はどのようになっているのだろうか。
ILO(国際労働機関)の推定によると全世界で2100万人が強制労働、人身取引、借金のかたによる労働など、奴隷のような環境で働いているとされている。被害者の90%(1870万人)は民間経済、すなわち企業活動により搾取されており、そのうち68%(1420万人)は、農業、建設業、家内労働、製造業におけるものである。これら企業は、強制労働により年間1500億ドルの不法利益(搾取)を強いられているとしている。
今回法制化した英国内において、英国内務省は2013 年時点で約1 万3000 人が奴隷状態にあると見積もっている。英国ではBBCなどのメディアも取り上げており、現代の奴隷制について社会問題としての認識が広がっている。
英国には東欧などから良い仕事があると騙されて連れて来られ、奴隷労働をさせられている人が多数いる。これらの人々は実際には話と違う職業に就かされ、パスポートなどの身分証明書を取り上げられ、借金を背負わされ、脅迫されながら、ほぼ逃げられない状況で働かされているのである。
英紙ガーディアンが、2014年6月のタイの漁船での奴隷制を報じたことも話題となった。報道によると、この事件は欧米の大手スーパーマーケットのサプライチェーン上で発生したものだ。奴隷労働が行われていた漁船の捕獲したエビが店頭で販売されていたことが発覚し、消費者に衝撃を与えた。労働者はタイの近隣国であるミャンマーやカンボジアから人身取引業者に「良い仕事がある」と騙されて連れてこられ、無報酬の上、漁船上では食料もろくに与えられず、殴打、拷問、そして処刑されることもあるなど、奴隷のように扱われていたことが労働者の証言から明らかになっている。
またFIFAサッカー・ワールドカップの開催を2022年に控えたカタールでは、建設現場での外国人出稼ぎ労働者の人権侵害、女性の家事労働者の強制労働・人身取引、肉体・性的な暴力などの虐待が報告されている。このような現代の奴隷労働によって準備が行われているワールドカップ・カタール大会のスポンサーは、既に非難にさらされるなど関係する企業への風当たりは強くなっている。
日本における現代奴隷制
日本でも現代の奴隷制が指摘されているのをご存知だろうか。
オーストラリアの国際人権NGOウォーク・フリー財団の2016年の報告書によると、日本では29万人が現代の奴隷制下にあると見積もられている。
また、米国務省の2015年人身取引の実態をめぐる報告書でも、日本は強制労働、性的搾取の人身取引の被害者の「供給・通過国」であるとされる。
また、「外国人技能実習制度」についても指摘されており、特に現代の奴隷制度を助長するものとして国際社会から見られている。東京オリンピック・パラリンピックを4年後の2020年に控え、建設準備等の労働力不足を、東南アジアの国々からこの制度の活用により補う計画がなされており、労働者を適正な形で雇用する制度となるのか国際的に注目されている。
世界では、企業がサプライチェーン上における現代の奴隷制を排除する取り組みが既に始まっている。そうした状況を踏まえ、日本企業は英国現代奴隷法を足掛かりに、日本国内外のサプライチェーン上に現代の奴隷制がないことを確認する努力を始めるなど、「ビジネスと人権」に関する認識を深め行動を起こすことが求められている。
下田屋 毅(しもたや たけし)
Sustainavision Ltd. 代表取締役
英国在住CSRコンサルタント。日本と欧州のサステナビリティ/CSRの懸け橋となるべくSustainavision Ltd.を2010年英国に設立。ロンドンに拠点を置き、サステナビリティ/CSRに関するコンサルティング、リサーチ、研修を行う。ビジネス・ブレークスルー大学講師(担当:CSR)