おわりに

本稿では、若年層における雇用形態の生む経済格差や家族形成格差について見てきた。長らく続く景気低迷を背景に非正規雇用者が増加しており、若い世代ほど同じ年齢時点における非正規雇用者の割合は高まっている。

正規雇用者と非正規雇用者では年収差があり、特に男性では年齢とともに、その差は拡大する。男性では年収と既婚率は比例し、既婚率が上昇する年収300万円あたりに家族形成の壁がある様子がうかがえる。

本稿では、この壁にぶつかっている年収300万円未満層を推計した結果、20代男性で263万人(雇用者の54.6%、正規雇用者の45.2%、非正規雇用者の79.5%)、30代男性で135万人(同様に20.4%、14.5%、62.4%)、40代男性で88万人(同様に12.1%、7.5%、59.4%)が相当していた。

政府は、今年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」の中で、「希望出生率1.8」の実現に向けて若者の経済的基盤の強化を図るとし、非正規雇用者の正社員転換や待遇改善の方向性を打ち出している。待遇改善策としては、同一労働同一賃金の実現や最低賃金の引き上げ、長時間労働の是正等の検討が進められている。

若年層の雇用環境の改善を考える上では、国の中期計画として位置づけられる「ニッポン一億総活躍プラン」の中に「若者の雇用安定・改善」が明示されていることは非常に意義深い。

また、厚生労働省の同一労働同一賃金に向けた検討会では、不合理な待遇差を是正するとして、基本給だけでなく各種手当についても議論がなされており(*6)、非正規雇用者の待遇改善に向けて大きな期待が寄せられる。

一方で、年収300万円未満の若年層が結婚に踏み切れない理由は、単に目の前の収入が違うということだけでなく、5年先、10年先の雇用の安定が見えないことがあるだろう。

「ニッポン一億総活躍プラン」では「非正規という言葉を無くす決意で臨む」という強い表現も見られるが、若年雇用の改善に向けて、より実行性を高めるためには、「女性の活躍促進」で見られたような何らかの数値目標を設定し、現在の非正規雇用から安定した雇用への転換を促す政策も必要ではないだろうか。

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(*6)厚生労働省「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」
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久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

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