付言事項は「平等に、同じ分量で、具体的に、プラスの言葉」で書く

1 相続人は全員登場させる

当たり前のことだが、付言事項は相続人のすべてを登場させなければいけない。長男の名前はあって、次男の名前がないとなると、次男としては面白くなく、無用な対立を招いてしまう。相続人のすべてが登場していない遺言書も見受けられるがまったくもって望ましくない。

2 相続人以外も平等に登場させる

家族とのエピソードを付言事項に書く場面も多いが、ここでも登場人物には注意が必要だ。たとえば長男の子ども(遺言者から見たら孫)が遺言で登場するのなら、次男の子も登場させるべきだ。人間はつまらないことで反感を覚えるものだから、ここでも配慮が必要なのだ。

3 同順位の相続人へのメッセージは行数をそろえる

相続人へのメッセージは、行数まで配慮しなければいけない。長男へのメッセージは5行あるのに、次男は3行しかないのなら、やはりこれも兄弟間の争いの種になるのだ。

そんな行数だが、すべての相続人分を同じ行数にすることまでは必要ない。たとえば妻へのメッセージは7行あって、長男へのメッセージは5行しかないとしても、長男はさほど気にしないのだ。長男から見たら「母親(遺言者から見たら妻)の立場と自分の立場は違うものだ」とわかっているからだ。

行数をそろえるべきなのは、同順位の相続人へのメッセージだ。具体的には長男と次男は行数をそろえる。次男からすれば、長男は兄であっても相続においては同じ「遺言者の子」である。「同じ立場の相続人は同じ行数にする」と覚えておくとよいだろう。

4 分け方の理由は「具体的に」書く

資産の分け方を明記するのは遺言事項だが、付言事項で分け方の理由を書くことが望ましい。注意点は出来るだけ具体的に書くことだ。

たとえば財産を多くもらえる長男は被相続人と同居していた、家業を継ぐことになっている、長男自身の生活を犠牲にするほどの介護をしてくれた。このような事情があるならば、相続人にとって明らかなことでも、しっかり遺言のなかに記載をする。

一方で財産をもらえない、あるいは少ない額しかもらえない相続人ならば、なぜそうなのかを具体的に書く。被相続人が特定の相続人にお金を貸していた、生前に結婚資金や新築資金のために贈与していた、被相続人がそれらの清算のつもりで相続させる財産を少なくしているのかもしれない。具体的に書くことで、相続人も納得しやすくなる。

5 プラスの言葉を使うなら全員に

付言事項で礼や褒め言葉を記すなら、特定の相続人だけにしてはいけない。ここでも「平等に」、各人にプラスの言葉をおくる。とにかく将来の紛争を回避するためには、相続人の立場を考え、特定の相続人だけを追い詰めることはしてはいけないのだ。

いかがだろうか。私も専門家の一人だということもあり、遺言書の作成をプロに依頼することはよいことだとは思う。法的な効果がない遺言になっては元も子もないのだから、ここは専門家に任せるべきなのだ。

けれども専門家は遺言者の家族ではない。家族にしかわからないそれぞれの立場などを踏まえた上で、付言事項はむしろ遺言者が主導して作成にあたるくらいの心構えがよい。家族の為にも、「争続」を回避する努力をしよう。(碓井孝介、司法書士).

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