都市ガスの導管敷設は国土のわずか5.7%
都市ガス小売りの自由化は1995年から段階を踏んで進められてきた。特定のガス会社が一定の地域に都市ガスを独占販売してきた体制を見直し、消費者が自由にガス会社を選べるようにするのが狙いだ。
日本の都市ガス料金は米国の2倍近くに達するなど、先進国で突出して高い。資源エネルギー庁ガス市場整備課は「市場に健全な競争を導入し、適切な料金にしたい」と考えてきた。
既に電力や石油販売、LPガス(液化石油ガス)販売会社などが参入の構えを見せ、電力の自由化と同様に本格的な競争時代に突入するようにも見える。
だが、電力と都市ガスで大きく状況が異なることがある。電力は全国に送電線網が既に整備されているのに対し、都市ガスの導管が敷設されているのは国土全体の5.7%。整備済みの導管網は首都圏など大都市部に集中し、東京−名古屋間でさえ導管で結ばれていないのが実情だ。
国内ざっと200の都市ガス会社のうち、4割は外部と導管がつながっていない。こうした地域に新規参入するとなれば、タンクローリーなどでガスを運ばざるを得ないため、参入業者はコスト面で大きな負担を背負うことになる。
このため、導管網が整備済みの大都市では、既存業者と新規参入業者の競争時代に入るが、未接続の地域では「すぐに競争が激化することはない」(島根県松江市ガス局)とみられている。地方はもともと人口が少ないうえ、人口減少が深刻な地域が多い。新規参入に二の足を踏む業者が出ても不思議ではない。
大都市と地方の料金格差は最大3.7倍
地方はこれまで都市ガス料金の格差に苦しめられてきた。資源エネルギー庁が2013年にまとめた報告によると、料金が最も安いのは関東地区で、北海道、中国・四国、九州・沖縄地区が高くなっている。価格差は最大3.7倍。関東なら1カ月5000円で済むガス料金が、地方では1万8500円になることもあるわけだ。
1996年に小売りが完全自由化されたLPガスも、三大都市圏を抱える関東、近畿、中部・北陸地区の料金が全国平均を下回るのに対し、北海道、東北、中国・四国、九州・沖縄地区は全国平均を上回っている。
首都圏や京阪神で新規参入業者が相次ぎ、都市ガス小売価格が下がったとしても、競争の乏しい地方でこうした影響が出るとは考えにくい。関東や甲信越では地方自治体が持つ公営ガスの民間譲渡に向けた動きが見られるのに対し、導管のつながっていない地域ではそうした動きが出ていないのもこのためだ。
市場開放は望ましいことだが、大都市の住民しかメリットを享受できないのでは、効果は半減してしまう。導管網の整備など新規参入を後押しする方策を急ぎ、進めなければならないだろう。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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